労働新聞 2008年3月5日号・4面 労働運動

しっかり要求し、交渉し
賃金低下に歯止めかける

労働運動の原則堅持し、
社会的責任果たす

河野和治 連合中小共闘代表・
JAM会長に聞く

 現在〇八春闘は三月十二日の集中回答日に向け、攻防が続いている。連合内の内需型産業を中心とした産別で構成する「有志共闘」には、新たにセラミックス連合や自治労全国一般が加わり、自動車や電機など多国籍大企業を中心とする外需依存構造に風穴を開けようと闘っている。また、JAMやUIゼンセン同盟など中小を抱える産別で構成される中小共闘も五年目を迎え、依然として続く大企業と中小企業との賃金格差の是正、地場における賃上げ実現へ向け、攻勢を強化している。春闘における金属労協(IMFーJC)の存在が揺らぐ中で、有志共闘や中小共闘の存在は、連合労働運動の中で大きな位置を占めている。〇八春闘における課題や闘い方などについて、河野和治・連合中小共闘代表(JAM会長)に聞いた。(見出し・文責 編集部)


賃上げで内需中心の経済へ転換図る
 私は二月に行われた連合の闘争開始宣言集会で中小共闘を代表してあいさつしたが、「賃上げで外需依存から内需中心の安定成長への転換を」と強調した。自動車や電機など外需依存のグローバル企業だけが業績を上げているが、内需型が多い中小企業は厳しく、個人消費もさえない。最大の原因は、非正規雇用が激増し、正社員の賃金も低迷して、労働分配率が低下の一途をたどっているからだ。
 個人消費を拡大するには、一割にも満たないグローバル企業で働く人だけではできない。圧倒的多数を占める内需型産業、中小企業のところで賃金引き上げをやらないといけない。だから中小での月例賃金引き上げの闘いは、内需主導の経済への転換のためにも積極的にやらないといけない、これは労働運動が負っている責任だ、と。今、中小企業、製造業だけでなく非製造業の内需型産業、昨年立ち上げた「有志共闘」の皆さんも、こうした使命感をもって非常に燃えている。
 一方で経営側の姿勢を見ると、一企業がもうかるか、もうからないかという狭い価値観の経営者が非常に多くなっている。「大企業と中小企業は対等」などとあり得ないのに、そういうことを平気で言う。
 しかし、外需ばかりに依存し過ぎると、最近のサブプライムローン問題の影響、対米輸出の減少や円高、原油高などの外的要因で日本経済が大きなダメージを受けることがはっきりしてきた。だからこそ内需中心への転換が必要だし、そのために賃上げは必要で、これには財界も反論できないはずだ。

賃金の実態把握と賃金制度の確立を 「4500円」の獲得を
 マクロの発信も大事だが、「労働分配率の反転」と言ってもミクロの集積で、労働組合が要求し、交渉してとっていく以外ない。
 JC共闘の賃金相場波及力が弱まっている中、大手組合依存ではなく、自ら相場を形成しようと「新たな共闘軸」としてつくりだされた中小共闘センターの取り組みは五年目を迎える。次第に成果が上がってきているが、今年も最大のテーマは、依然として「賃金の低下傾向に歯止めをかけ、格差の是正を図る」ということだ。
 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を見ても、中小企業では一九九七年をピーク時とした場合、二〇〇六年時点では、三十歳・高卒労働者で一万九千四百円も下がっている。三十五歳・高卒労働者では二万三百九十九円も下がっている。
 なぜそうなったか。連合の調査によると、まず「賃金カーブを維持できたかどうか」と聞いたところ、「維持できなかった」というのが多い。しかも、組合の規模が小さくなるほどこれが増加している。さらに規模が小さくなるほど、賃金カーブを維持できたかどうか「分からない」というのが多くなっている。これは賃金制度が確立していないことを示している。だから、賃金の低下傾向に歯止めをかけるためには、賃金実態の把握と賃金制度の確立がなんと言っても大事なことだ。
 中小共闘の場合、〇六年から「四千五百円」を定期昇給相当分としているが、〇七春闘の中で四千五百円に到達しているのは、全業種平均で三五・九%だ。タクシー、トラックなどの交通・運輸業ではわずか四%台にすぎない。商業・流通業も大幅にポイントが下がっている。〇七春闘では「とにかく四千五百円取ろう」とやったが、それでも取れていないということだ。「四千円」に設定したところでも、到達したのは全体でも五〇%に満たない状況だ。
 こうした実態を踏まえた上で、中小共闘として〇八春闘に臨むにあたって、以下三点を強調している。
 一点目は、産別が賃金実態の把握をキチンと単組でやれるように指導してほしいということだ。二点目は、この賃金実態の把握の上に立って、賃金制度を確立すること。三点目は、賃金カーブの確保相当分である目安、「四千五百円」の獲得だ。さらに、賃金低下に歯止めをかけるため、「四千五百円」という上げ幅だけではなく、「何歳の人にいくら」という到達目標水準を設定した。これは初めてのことで、重要なポイントだ。
 「四千五百円」というのはJAMの方針と同じで、JAMでは三百人規模以下での組織が構成全体で八五%を占め、構成組織の六割が百人規模以下だ。現在、百人規模以下での組織率というのは全体で一・一%しかない。JAMはそこの労働者をよく組織しているわけで、JAMの運動方針や運動のあり方、結果というのは中小企業の労働運動全体に対して大きく響くと思っている。

中小の格差是正のためには、不公正な取引慣行是正が不可欠
 大企業と中小企業の賃金格差を是正するには、中小の労働組合が賃上げをがんばるのが第一だが、他方でその成果が上がるためには、中小企業の経営基盤を安定させる環境づくりが不可欠だ。経営者団体は「中小企業の労働分配率はすでに高く、賃上げの余地はない」と言うが、中小の労働者の賃金が高くてそうなったわけではない。賃金は低下の一途をたどり、格差が拡大しているのに労働分配率が高いのは、納入先の大企業から取引単価が抑えられ、労働者が生み出した付加価値が持っていかれて、中小企業にはほとんど残らないからだ。この大企業と下請け中小企業の取引における力関係、構造を改善し、公正な取引を実現させる必要がある。
 連合と連合総研は昨年、三百人以下の中小企業を対象に「中小企業における取引関係に関する調査」を行ったが、そうした実態が浮き彫りになった。
 その中で「現在、取引において直面している問題」と聞いたところ、一番多いのが「仕入れ単価上昇によるコストアップ」、二番目が「単価の下落や引き下げ要請」、三番目が「取引先からの受注減少や取引打ち切り」となっている。
 そして「価格・単価の引き下げのために実施した施策」と聞くと、一番目が「作業工程を工夫・改善」。二番目に「賃上げの見送りや一時金の見直し」ということで、賃金にしわ寄せされている。三番目は「協力会社に価格引き下げを要請した」、四番目が「外注や請負に出した」。さらに五番目には「正社員を派遣・パートに置き換えた」がきている。これは単価引き下げのために、結局中小で働く労働者がワリを食わされているということを示している。
 結果、「賃上げをしなかった」もしくは「賃下げをした」理由として、「価格引き下げで賃上げの余裕がない」と答えたのが中小企業全体で二五%、製造業では二三・四%。特に電機機械、輸送用機械など自動車関係では三割以上となっている。
 しかし、不公正な取引慣行を規制する法律として、「下請代金支払遅延等防止法」などあるにもかかわらず、こうした法制度について「いずれの法律も知らない」というのが四割にも達している。オーナー会社が多い食品関係では六六・四%もだ。
 したがって、中小共闘は中期的な取り組みとして、取引にかかわる問題点を明らかにしながら、下請け関係二法や「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」の活用を、国や地方、業界団体にも働きかけて、取引の改善を実現していきたい。中小企業の健全な発展を促すのも大企業の社会的な責任だ。

派手さ追わず、労働運動の基本を実践する
 地方連合における中小共闘の取り組みと、中央での共闘との取り組みをどううまくリンクさせていくかが問われている。
 そのためにはまず、賃金実態を明らかにすることが大事。大企業も中小企業もだ。その上で中小共闘としては、地方連合における共闘と、地方連合が展開している「地域ミニマム運動」とを連動させていく。
 地方連合での大きな課題は、賃金実態がなかなか明らかにならないことだ。賃金実態が明らかにならないところに、取り組みの強化はあり得ない。
 だから専従者が単組に入って、賃金実態の把握を指導している。
 賃金水準や労働条件は急にはよくならない。賃金実態の把握など取り組みの基本の積み重ねがないといけない。派手なことはないが、基本的なこと、産別で決まったことが単組まで伝わり、実践され、結果を出す、これを徹底的に浸透させたい。だから、要求は必ず出す。スタートラインに立たない限り、何も進まない。
 「しっかり要求し、交渉する」という労働運動の原則抜きには春闘はない。


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