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労働新聞 2007年1月1日号・12面 労働運動
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07日本経団連
「経営労働政策委員会報告」を
批判する
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多国籍企業のアジア市場争奪の野望の表明
日本経団連は、昨年十二月十九日、御手洗会長の新体制の下で最初の「二〇〇七年版経営労働政策委員会報告」(以下「報告」)を発表した。
日経連時代の一九七四年から始まり、「経労委報告」に継承されてきた財界の報告書は、春闘を前に財界の時代認識と労働運動への対応指針を示し、わが国資本家階級としての認識の統一、理論武装を図る重要な役割を果たしてきた。中でも第一次石油ショックの一九七四年に発表された、大幅賃上げの行方研究会報告、日本経団連発足後初の〇三年に発表された、「春闘終えん」宣言の経営労働政策委員会報告は、わが国の労使関係に大きな影響を及ぼした。
今回の「報告」は、労働者へのリストラで立ち直り、積極的な海外展開で高収益を更新し続けている多国籍企業が、世界経済の構造変化に立ち向かい、中国を中心とするアジア、BRICs諸国での市場争奪戦に勝ち抜こうとする野望をあからさまに表明、そのために不可欠な新たな労使関係の「改革」方策を提示したものである。
「報告」の序文で御手洗会長は次のように述べている。
「われわれは、日本を『希望の国』にしたいと考える」
「グローバリゼーションは事業機会を世界中に拡大し、いっそうの豊かさを享受し得る好機を提供している。競争の激化はあっても、世界経済の構造変化に積極果敢に立ち向かい、世界のダイナミズムを自らのものとするという姿勢こそが好機をつかむ鍵となる」
これは、まぎれもなくわが国多国籍企業の新たな挑戦の表明であろう。
わが国製造業大企業は、八〇年代後半から経済摩擦と円高対策、激化する世界的競争に勝ち残るために、安い労働力を求め海外生産を積極的に展開してきた。冷戦後のグローバル経済の進展の中、多国籍化に拍車をかけ、生産と資本の集中を進めた。
二〇〇〇年以降、自動車産業を中心にいちだんと海外展開が進められ、その海外生産比率は三六%まで高まった(製造業計では一六・二%、〇四年度末)。それに伴い企業内貿易が激増、輸出入とも四〇%近くを占め、一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械などは五〇〜七〇%にも上っている。
こうした結果、企業の海外営業利益率(現地子会社の営業利益合計を連結営業利益で割ったもの)は、上場企業五百六十四社平均で二九・五%(〇五年度、日経新聞)にも上り、多国籍企業としての「成長」ぶりを示している。中でもトヨタ四三%、日産五七%、ホンダ五八%、コマツ四八%、ブリヂストン三七%、ヤマハ発動機六九%は高い。地域別の展開を見ると、まだ米州が四二%と高いが、近年中国を中心にアジア・オセアニア三二%と比率が高まっているのが特徴である(欧州は一四%)。
さらに、海外子会社の売上高に日本からの輸出額を加えた海外売上高比率(連結売上高全体に占める割合)で見ると、海外依存はより鮮明で、上場企業全体で五〇%を上回り(〇二年には四二%)、自動車大手六社では七六%、電機大手六社では五一%となった。
要するに、わが国大企業は海外生産を積極的に展開し、海外で半分以上の収益を稼ぎだすところまで発展しているのである。そのトップを走るトヨタは、世界の多国籍企業の中で総資産、総売上とも六位に浮上、生産実績では〇五年世界二位で〇七年にもGMを抜き世界一に躍り出ようとしている。
「報告」は、序文の引用で明らかなように、ここにきて新たな目標を設定し、「積極果敢に立ち向かう」ことを表明している。東アジアでは、「中国を中心とした経済統合の動きに押されている感は否めない」、消費市場として巨大な可能性を秘めているBRICs諸国への対応は「後手に回っている」と。御手洗会長は、就任以来、「アジア経済のダイナミズムを取り込むために、自由貿易協定の締結加速」を繰り返し発言してきた。さらに「報告」は、「イラクを中心とする中東地域」の地政学的リスクに懸念を表明し、「朝鮮の核武装化への動きは、日本経済安定の基礎を揺るがしかねない」と非難している。
中国を中心とするアジア、BRICs諸国をめぐって米欧諸国の多国籍企業との争奪戦で、優位に立つべしとの野望は明々白々である。
そのためには、「国内経済の構造的課題を放置し、企業経営改革の手を緩め」てはならず、イノベーションを推し進めよ、と叱咤(しった)している。これは、多国籍企業による中小企業収奪がいちだんと強化され、労使関係も激変する過程となろう。
わが国財界の頂点に立つ多国籍企業は、「報告」を通じて、その他の大企業、中小企業の経営者に、さらには労働組合幹部に対して、自らのこうした野望、一握りの多国籍企業、資本家どものあくなき利潤追求に、協力させ、総動員するために、「希望の国」などと幻想をあおり立てているのである。われわれはまず第一に、多国籍企業のそうした階級的野望を見抜かねばならない。
「働き方の二極化」をさらに拡大する「ワーク・ライフ・バランス」
衣の下に「労働ビッグバン」の鎧
「報告」は、企業レベルの成長力強化・生産性向上の取り組みとして、(1)企業理念・戦略の明確化、変化をいとわない企業風土の確立、(2)研究開発投資への積極化、ICT(情報通信技術)の有効活用と並んで、(3)人材力の強化をあげ、「自律型人材」の育成を強調している。
「イノベーションの原動力は人材の力である」として、その力を引き出すものこそ「新たな働き方の推進」、すなわち「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の実践である」と切り札のように位置づけている。企業は「人材の確保と仕事の効率化」を実現し、従業員は「仕事と生活を調和し、多様なライフスタイルの実践が可能となる」という。
だが、これはまったくのペテンである。
こんにち、多くの職場では、長時間労働を余儀なくされている正社員と、低賃金で企業の都合に合わせて便利使いされるパート、派遣、有期、請負など非正規労働者への「働き方の二極化」が進み、人材力が低下している。
それは、世界的競争に勝ち残るために、徹底して人件費コストを削り、正社員を非正規に置き換えてきた結果である。大企業では九五年の「新時代の日本的経営」を指針にそれぞれに合う「雇用ポートフォリオ」で雇用管理して来た結果である。
ますます世界的競争が激化し、人件費コストをさらに削らねばならない時に、仕事と生活を調和させながら、多様なライフスタイルを楽しめる余地などどこにあるのか。まさか、経営側が人件費コストを増やすなどと考えているわけではあるまい。
もっともありそうなことは、「働き方の二極化」は放置されたまま、経営側にとって使い勝手のよい非正規労働者がさらに拡大されることである。それは、個々の非正規労働者にとってはより劣悪な条件を押し付けられ、複業就労を余儀なくされ、ワーキングプア層に突き落とされる道である。
あるいは、正社員ホワイトカラーの時間規制緩和で、ますますタダ働き、過労死が促進すれるかもしれない。
いずれにしても、圧倒的多くの労働者にとってはより厳しい事態となり、ごく一握りのエリートにとってだけ「仕事と生活の調和」が実現することになり、「働き方の二極化」がいちだんと拡大する結果となろう。
「ワーク・ライフ・バランス」という聞こえのよいフレーズの衣の下には、「労働ビッグバン」の鎧が隠されていると見るべきである。
「報告」には、政府に対する要求として(1)自立的な働き方のための労働時間規制の改革、(2)解雇の金銭解決など労働契約法制、(3)労働力需給制度等に関する法規制の緩和、(4)雇用保険制度の見直し、(5)最低賃金制度の改革などが列記されている。
どの一つをとっても戦後労働運動が闘いとった権利を侵害するもので、これら「労働ビッグバン」に対する闘いを本格的に準備しなければならない。
賃金格差をさらに拡大する春闘指針
「報告」は、春闘の労使交渉・協議の場が、「ヒトを中心とする経営の問題」を論議する「春討」の場であることを強調している。
その上で「横並びで賃金水準を底上げする市場横断的なベースアップは、もはやあり得ない」「競争力強化が最重要課題であり、賃金水準を一律に引き上げる余地はない」「企業の好業績により得られた短期的な成果については、賞与・一時金で」と労働者の賃上げ要求を拒否する姿勢を打ち出している。
さらには、総額人件費の抑制、「仕事・役割・貢献度に基づく賃金制度」への見直し、定期昇給の廃止、退職金・企業年金の見直しなどにも踏み込んでいる。
五年連続の収益を上げ、株主、役員には手厚い報酬を与えているにもかかわらず、財界はあくまで、競争力強化の観点から、徹底して労働者の賃金、人件費を削ろうというわけである。
これに対し連合は、(1)実質一%以上の成果配分を通じて労働分配率の改善、(2)月例賃金を重視した賃金改善、(3)中小企業労働者やパートタイム労働者等などを重視した全体の底上げで闘うとしている。
だが、産別自決、「賃金改善」では、経営側の賃金抑制を打ち破って、中小労働者、非正規労働者の格差是正はできず、労働者全体の賃上げを実現することはできない。
昨春闘でわずかながら「賃金改善」を実現したが、いくつかの産別、企業では、「獲得」した「賃金改善原資」でさえ三十歳代の開発や営業部門など限られた層に配分された。今春闘でも特定層への配分を前提に「要求」を提出する動きが見られる。それは労働組合が、実質的に経営側の「競争力を強化する人材戦略」の代行役をつとめているに過ぎず、格差拡大に自ら手を貸す行為といわなければならない。
先進的労働者は、こうした多国籍企業労組の「労使協調」と決別し、中小、非正規の労働者の要求を断固支持し、統一した断固たる闘争で賃上げを実現しなければならない。
闘おうとすれば、条件は広がっている。大企業と中小企業、それぞれの正規と非正規の格差は耐え難いほどに拡大している。連合内外を問わず組織された中小労働者、さらには未組織労働者の中にも怒りが蓄積されている。
かれらの要求を断固として支持して闘うと共に、未組織で放置されているもっとも多数派の中小労働者を組合に組織するために闘わなければならない。これは、労働運動再生のための戦略課題である。
さらに、オーストラリアとの自由貿易協定(FTA)で壊滅的打撃を受ける北海道農民の闘いなど、安倍政権の「改革」の犠牲となり、各所で闘っている国民各層と連携して闘うことは重要である。
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