労働新聞 2003年2月25日号 社説

切迫するイラク戦争と米欧同盟の亀裂

 

 米ブッシュ政権は、ここ数日中に国連安保理でのイラク武力攻撃を容認する、新たな決議案を提出する一方、二月中にはイラク周辺地域に米英軍25万人超の配備を完了し、何が何でも開戦に踏み切ろうと準備を急いでいる。
 これに反対して、米国内を含め、全世界でイラク攻撃反対の世論と行動が高揚し、2月15日には全世界で60カ国1000万人といわれる人びとが街頭に繰り出し、かつてない反米、イラク侵略戦争反対の大規模なデモンストレーションが広がっている。この盛り上がりは、対イラク強硬派の英国の外相に「この世論は考慮せざるを得ない」と言わしめ、対米追随の小泉首相までも「イラクに誤ったメッセージを送る」などと、恐れおののかせている。
 一方、ドイツ、フランス、ロシア三国は10日、「武力行使は最後の手段」と「査察強化」を主張し、即座の開戦に反対する共同声明を発表した。また、イラク戦争に伴う北大西洋条約機構(NATO)による「トルコ防衛」を独仏とベルギーが拒否、NATOは一時、その存在を問われる事態へと追い込まれ、「米欧同盟」の亀裂は劇的に深まった。
 孤立する米国は、1月末、イタリア、スペイン、さらに欧州連合(EU)新規加盟が予定されている中・東欧諸国などに手を回し、米武力攻撃方針支持を表明させるなど、仏独への揺さぶりを強め、当面、安保理での新決議賛成へ向け中間派理事国の切り崩しに懸命である。
 米国が引き起こそうとしているイラク戦争をめぐって世界情勢は今、固唾(かたず)をのむ事態となった。このような中で、わが国小泉政権は米国にあくまで追随し、自主性、戦略性のかけらもない売国外交を続けている。早々と昨年、イージス艦をインド洋に派遣、事実上の米軍との集団的自衛権行使に踏み切り、果てはイラク戦後の「復興」支援に名乗りを上げ、18日には国連安保理の公開討論で圧倒的多数の国々が「平和的解決」を求める中、武力行使容認の「新たな国連決議」採択を訴え、米国支持を鮮明に打ち出した。ラマダン・イラク副大統領は、わが国を「米英に次ぐ第三の敵」と警告したが、文字通り小泉は米国のお先棒を担ぎ、安保理理事諸国へ新決議支持の説得にあたるなど、世界のすう勢に逆行し、わが国をアジアや中東諸国と敵対させる亡国の道を歩んでいる。
 米軍のイラク開戦に反対し、小泉政権の戦争協力に反対する世論と闘いを、今こそ圧倒的に強めなければならない。石油など資源を外国に依存しなければならないわが国は、イラク、中東諸国との歴史的な友好関係を破壊してはならず、自主、独立で、あくまで互恵、共生の道を歩まねばならない。

世界支配のための戦略要衝を狙う米国
 米国・ブッシュは、国際的孤立の中でも、ますます居丈高で、単独ででも戦争に持ち込み、イラクの武装解除とフセイン体制打倒、親米政権をつくり上げ、米軍を駐留させるという意図と作戦をまったく隠そうとはしていない。
 国連の査察委員会の報告も、米パウエル国務長官の行ったスパイ報告ですら、「テロ支援国家」など言いがかりに過ぎず、「大量破壊兵器」査察も攻撃のための手順、口実に過ぎないことを明らかにした。これらは、米国の意図、狙いが別のところにあることを示している。それは、開戦とイラクの武装解除、占領が、米国の世界支配のための戦略遂行に不可欠であることを意味している。
 今日の米国の国家戦略の基本は、冷戦後の国際世界で二度と再びソ連のような対抗勢力の登場を許さず、政治・経済・軍事で唯一の超大国の地位を維持し、世界支配の基礎を固めることである。冷戦終結直後、これに勝ち抜く上で功績があった戦略家といわれる、ブレジンスキー(元安全保障担当大統領補佐官)は、「ソ連の敗北と崩壊によって、米国は有史以来はじめて、本当の意味で世界全体を勢力圏とする大国となった。圧倒的な力を持つ敵対的な勢力がユーラシアに出現するのを防げるかどうか、世界覇権国としての米国の力を保つ上で、決定的となっている」と明け透けに述べ、「この闘いでは地政戦略が重要となる」と指摘した。
 こうした流れの中で、東アジア戦略その他、冷戦後の米世界戦略が策定され、追及されてきた。また、米主導のグローバル資本主義の危機と、ドル体制の動揺の深まりという情勢の中で、同時テロ事件を逆手にとって、昨年、米国が打ち出した強盗の論理が、ブッシュ・ドクトリンであった。これは、唯一強大な軍事力のみを振りかざし、敵対国に対する核を含む先制攻撃と内政干渉を正当化し、この米国の妄想の戦略に同盟国らを従わせ、世界支配を維持しようという、この時期の米国の世界戦略の宣言である。そしてイラクがその最初の、直接の標的となったのである。

深刻な困難に直面したブッシュ・ドクトリン
 しかし標的は、イラクだけではない。
 イラクは、サウジアラビアに次ぐ世界第二の原油資源埋蔵国であり、中東地域の大国である。イラク、そして中東は、先にふれたブレジンスキーのいう「ユーラシアの地政戦略」上の要衝にほかならない。米国はイラクの先に仏独など西欧列強を見据えている。冷戦終結によって、「対ソ連」というタガがはずれ、EU統合、単一通貨ユーロの発足、そして、政治統合から独自軍創設へと向かい、独自傾向と米国との対抗関係を強める欧州に対して、米国は、イラク戦争を主導し、親米政権を樹立し、米軍が居座ることで、欧州諸国の中東での歴史的権益を奪い、影響力をそぐことを狙っている。これは米国にとって、単に原油利権獲得というにとどまらず、欧州の死活をも握ることにつながり、欧州が米国との同盟を崩せないようにし、目下(めした)の同盟者として組み伏せつづけることを意味する。また、今世紀初頭のうちに、原油などエネルギー資源の巨大な輸入国となる中国をにらんだ、長期の包囲網形成の狙いがあることも明らかである。
 したがってまた、仏独など西欧列強も、この問題に死活をかけている。ロシアや中国も大いに関心を持たざるを得ない。国連での一連の闘争、NATOをめぐる駆け引きなどは、米国一極支配を許すのか、それとも中東への手がかりを残し、「独自の欧州」を強めるのか、米欧間の矛盾と対立の深刻化を示すものである。そして、開戦、それへの仏独の対応など、事態の推移はその矛盾をいっそう激化させずにはおかないであろう。今日の事態を、キッシンジャーは「NATO創設以来の最も深刻な危機」(2月23日付「読売」)と表現し、「大西洋同盟には不信という遺産が重くのしかかるだろう」と悲観的見通しを述べざるをえなかった。まさに、米国の世界支配戦略、ブッシュ・ドクトリンはその発動直後から、大きな困難と矛盾に直面したのである。

帝国主義に反対する諸国、人民の闘いこそ真の力
 もちろん、フランスは決して「武力行使」を否定してるわけではない。イラクの武装解除では米欧は一致しており、仏独などは戦争後のイラク、中東への手がかりを残そうとしているに過ぎない。その意味で、仏独の抵抗に、あるいは国連とその諸決議などに「平和」のための役割を期待することなど幻想である。
 武力行使を容認する、新たな国連決議などを騒ぎ立てる小泉政権はもとより、「イラクの査察への全面協力」を言う民主党、「国連の枠組みの中での平和解決」と「イラクの国連決議の厳格な順守」を要求する共産党など議会の野党の無力さ、「平和ボケ」は救いがたいものである。「大量破壊兵器」などというなら、核を中心とする超軍事力の体系で他国をどう喝し、世界を支配を続けようとする米帝国主義こそ問題にされなければならない。弱小国が自国の独立を守るために武装し、大国の支配、圧迫と闘うことは当然の権利である。真に世界の平和を望むならば、それを破壊する最悪の敵、米帝国主義の戦争政策、世界支配戦略を暴露し、正面から闘わなければならない。
 全世界の人民、諸国家の帝国主義反対の闘いだけが、悪の国家・米帝国主義の戦争策動を打ち破る真の力である。その闘いの中でとどめを刺すことができるのは、米国人民である。全世界のイラク戦争に反対する闘いと連帯し、世界の弱小国、人民の帝国主義に反対する闘いと連帯し、さらに大規模な行動と戦線を構築して闘おう。


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