労働新聞 2007年4月25日号・5面 国民運動

障害者自立支援法1周年
全国の怒り集め譲歩勝ち取る

「命を削る」悪法なくせ

尾上 浩二・DPI日本会議
事務局長に聞く

 障害者自立支援法が施行されて一年が経過した。この間、容赦のない自己負担増とサービス切り捨てが行われたが、一方で、この攻撃に対する障害者や支援者・関係者の闘いが大きく発展した一年でもあった。この間の闘いの成果や今後の課題などについて、障害者インターナショナル(DPI)日本会議の尾上浩二事務局長に聞いた。


 昨年四月から、介護サービスの利用に際して原則一割の「応益負担」を課されるようになった。その結果、大勢の人が預貯金を切り崩したり、サービスの利用を減らすことを余儀なくされ、特に重度障害者ほど重い負担を強いられるようになった。
 そして十月から自立支援法が全面施行され、介護保険になぞらえた新しいサービス支給決定方式が始まった。これは介護保険の調査項目そのままに「何ができる」「できない」と問い、それにもとづいて障害程度区分を決めるもの。
 私たちは十月にこれに対するアンケートを行ったが、「この支給決定を変えてほしい」という人は七割近くに上った。どんなサービスが必要なのか、一人ひとりの生活状況を配慮してもらえないことの不満は大きく、訪問調査で「何ができないか」という二時間にもわたる質問がプレッシャーになり鬱(うつ)がひどくなった精神障害者の方もいる。
 この支給決定でサービスが減らされた人は多く、外出を減らしたり、さらには入浴やトイレ、水分補給を減らしたりして対応しているという。それが原因で床ずれができて「苦痛で睡眠不足になり、体調を崩した」という人もいた。筋ジストロフィーの重度身体障害者で二十四時間の介護が必要であるにもかかわらず夜間介護が三十分しか認められず、いつ痰(たん)がからんで呼吸が止まるかも分からないのに介護がつけられない人もいる。将来を悲観して高齢の夫婦が知的障害者の娘を道連れに一家心中する痛ましい事件も起こった。
 私たちは「四月からは生活を削り、十月からは命を削るようになった」と言ったりしているが、これは決して比喩ではない。
 さらに十月からは地域生活支援事業も施行された。これにより移動介護が支援費の個別支給から外れ、「地域の特性や利用者の状況に応じて…」などの名目で自治体による事業となったが、これは国が責任を持たずに、事業を地方自治体に丸投げしただけのものだ。結果として自治体によってサービス支給時間の格差が広がり、調査の限りでは十六倍もの格差が生じている。自立支援法成立の際の「地域格差をなくす」といううたい文句と反対の事態が起こっている。
 私たちが指摘してきた問題が予想以上に進んでいる。そもそも自立支援法は介護保険と統合させるための措置であることは明白で、はじめから障害者の生活実態に合わせたものではない。根本的に見直されるべき制度だ。

最大規模の1万5千人結集
本格施行2カ月で修正へ

 私たちはこうした自立支援法による事態を想定していたので、全国六百以上の障害者団体で「障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動」実行委員会をつくり、自立支援法の制定前から毎月のように厚労省と交渉し、また厚労省や国会前での反対行動を積み重ねてきた。
 昨年の十月三十一日には、法成立から一年が経つのに合わせて「出直してよ! 障害者自立支援法」という大行動をやり、全国から一万五千人の当事者、家族、支援者が厚労省前に集まった。私は三十年近くこの運動をやっているが、障害者の課題でこれだけの人数が集まったのは初めてだ。
 この行動に合わせて、厚労省は「自立支援法の影響は極めて低水準」という内容のプレス発表したが、深刻な実態は隠しようがなく、結局一万五千人の数のプレッシャーがあったのか、翌日には柳沢厚労相が「先日の発表は事務方が勝手につくったもの」と責任逃れをした上で「見直すべきは見直していく」と発言した。十二月には世帯収入できまる負担上限額の引き下げなど、いくつかの見直し案が出された。本格施行からわずか二カ月での見直しに踏み込ませたのは、一〇・三一の成果だ。

社会保障全体に攻撃強まる
多分野と連帯の輪広げたい

 一定の見直しはなされたものの、積み残された問題は多い。やはり障害者の地域生活実現を真正面に据えた、根本からの制度見直しまで闘う必要がある。
 また、厚労省が介護保険との統合をあきらめたわけでもない。私も参加したのだが、この二月には社会保障審議会の障害者部会で障害者団体へのヒアリングを行っている。もっとも、以前は「介護保険への統合賛成」と言っていた他の団体も、結果として自立支援法が介護保険への統合後のシミュレーションとなったため、「自立支援法で混乱している時に統合を話題すること自体が不謹慎。議論を凍結すべし」との意見に傾いた。
 まだまだ予断を許さないが、当初厚労省がめざしていた「〇九年の統合」は難しくなっただろう。
 また社会保障全体への攻撃が強まっている現在、セーフティーネット全体の再構築をめざす方向で、障害者運動以外の方との連帯の輪も広げる必要があるだろう。この三月には、障害者の課題だけでなく、生活保護やワーキングプアなどの課題も含め幅広く貧困の課題を取り上げた集会を、私たちも加わった実行委員会主催で開いた。今後こうしたネットワークもいっそう広げていきたい。


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