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労働新聞 2004年1月1日号 8〜9面
国民の反対を押し切り、小泉政権はイラク派兵を決定した。米国の占領に加担するこの決定はわが国を中東諸国と敵対させ、国の進路を誤らせるものである。反対の声は保守系の人びとからも上がっている。昨年12月には航空自衛隊の先遣隊派遣が強行され、今年早々には陸上自衛隊の主力部隊の派兵が強行されようとしている。2004年の年頭から派兵反対の国民的運動を盛り上げることは急務である。今回、各地で反対運動に取り組んだり、憂慮の声をあげている各界の人びとに聞いた。
ホットライン開設し自衛官・家族の声聞く
不安・憤りの思い受け止め
高橋英子・「人権ホットライン」事務局長
反対運動の一環としてのホットライン
今回、旭川市にある陸上自衛隊第2師団が主力部隊としてイラクに派遣されるという決定が出たが、マスコミなどで報道されている通り、イラク国内では戦闘地域、非戦闘地域がまったく区別がつかない。そこへ自衛隊を派遣するという政府の決定は、大きな問題だ。
にもかかわらず、先の総選挙でも争点にはならず、まったく国民に選択肢が示されなかった。そうした意味も含めて、黙って自衛隊の派遣を見過ごすことができないということで、反対運動の1つとして「自衛官と市民をつなぐ人権ホットライン」(代表・坪井主税札幌学院大教授)を開設した。
すでに各地で自衛隊員向けにホットラインを開いている人に聞いてみると、自衛隊の人たちは市民から「反対」と言われると、自分たちの人格まで否定されているように思うという。こうしたことは私たちは考えられないことだが、私たちが「イラク派兵反対」と言ったときに、派遣されようとしているその当事者である隊員やその家族の思いや悩みなどを、実際の声として聞いてみたいということで始めた。
不安な声次々と 署名活動始めた人も
寄せられた声は多くの自衛隊員の家族の声を代表しているのではないか。
「帰ってきた息子は話そうとしない…」というのはある隊員の母の声ですが、この電話があったころはイラクで日本の外交官2人が殺された時期だったので、自分とオーバーラップさせる形で、事態を見ていたと思う。だから、皆さんとても不安で、なかなか電話を切ろうとしないし、1人ひとりのお話がとても長い。「夫にも話せない」「誰にも話せない」という悩みを抱えながらも、「なんとか派兵を止めさせたい」「中止させたい」という思いを、例えば涙声まじりだとか、ときおり声を詰まらせながらそれぞれ話されている。
「とにかく自分の気持ちを受け止めて頂いてありがとうございます」という方もいるし、「がんばってください。私たちは『派兵中止』とは言えないので」と、逆に応援したりという人も多くいた。
今回、メッセージを寄せた方でも「黙ってはいられず署名活動を始めた」という方もいるし、それから旭川での集会ではお子さん連れの自衛隊員の元奥さんが参加したりと、いてもたってもいられないという思いを形にしたいという人もいる。
無責任なイラク派兵 今後も運動を継続
自衛隊の官舎があるし、人口の何割かは自衛隊関係者という町で、どうしても自分の気持ちをメッセージとして伝えたいという思いを、今回のホットラインを通してお聞きできたという意味は、とても大きかった。やはり反対運動をしているというホットラインに電話をするというのは大変なことと思う。
一家の大黒柱が犠牲になった時の補償がまったくないままイラクに行くということに、本当にだれが責任をもってくれるのか。撤退するとしたら、だれが決めてくれるのか。最後の責任はだれがとるのか。国会の中でキチンと議論されないまま行き、人道支援といいながら武器を持っていくという矛盾した日本の政治を見てて、「『派兵は国益』というが本当に日本の国益なのか」という意見も多かった。
今後も引き続き隊員や家族、関係者の本当の思いをくみ取りながら運動を継続していきたい。
●ホットラインに寄せられた声の一部●
息子は話そうとしない。親に心配をかけたくないようだ。何とか行くのを辞めさせるよう説得したい。(自衛官の母)
夫は行ってもよいと思っているらしい。妻としては不安。不安な毎日を送り、その思いが届かないことに憤りを感じる。(自衛官の妻)
自分は行くつもりだ。しかし、部下をどのように説得したらいいのか。(自衛官)
(2003年12月1日〜5日までに寄せられたものの1部)
派兵計画ある自衛隊基地の地元で反対集会
派兵具体化には再度行動を
大西一男・旭川平和フォーラム事務局長
平和フォーラム中央、北海道平和フォーラム、全国基地ネットワーク、そして私たち旭川平和フォーラムが入っている平和フォーラム道北ブロック協議会の4団体で実行委員会をつくって12月14日、旭川市で集会を行った。集会には124団体、約2200人が集まり、道内はもとより基地県である神奈川や沖縄からも代表が参加し、報告が行われた。
主催者を代表して中央の福山真劫・平和フォーラム事務局長が主催者あいさつを行い、自衛隊の派兵阻止を訴えた。
また、「自衛官と市民をつなぐ人権ホットライン」代表の坪井主税・札幌学院大教授が、派兵計画で揺れる自衛隊員やその家族の思いについて報告した。
デモの途中には、自衛隊員の元奥さんが5歳と8歳の子供をつれて合流し、「私は自衛隊員家族だった。是非、行かないようにしてほしい」と訴えた。
今後、派兵が具体化される事態になれば、それに向けて、反対行動を組むつもりだ。
連合も札幌で集会を開き、地域連合でも大会でも反対決議を行った。
地方連合も派兵反対で行動
労組は平和運動に力を
新名照幸・連合宮崎会長
12月14日の集会には、連合傘下の組合員約1000人が参加した。
イラクで死亡した日本の外交官2人のうち1人は本県出身だが、小泉首相は2人の死を派兵へのムードづくりに利用している。
国民の大多数が反対している中で、強引に派兵計画を決定するのはおかしい。ブッシュ米大統領の圧力だけではなく、憲法9条の改悪への地ならしではないかと、個人的には思っている。労働組合はこうした平和の課題にもっと積極的に取り組むべきだと思う。
沖縄からの派兵阻止へ闘い強める
意見広告出し、県民運動大会準備
川上満・自治労沖縄県本部書記長
沖縄では平和運動センターを中心に12月8日から街頭に出て反対行動を始めている。9日には緊急集会を行い、そうした流れの中で、県職労や那覇市職労は独自に街頭宣伝を行った。
26日には航空自衛隊の先遣隊がイラクに派遣されるというので、前日には県職労、那覇市職労、全水道などと昼休みの緊急の抗議集会を開いた。夜には那覇の航空自衛隊基地の前でも緊急抗議集会を開いた。
また自治労九州地連として、構成する県本部のある各地方紙に反対の意見広告を出した。また反対の県民の意思を明確に打ち出そうと連合、平和運動センターと調整しながら1月20日には、5000人規模の県民大会を予定している。
平和運動センターに自衛隊員の母親が反対署名を持ってきて、「どんなことでもやるから行かさないでくれ」と訪ねてきた。大戦を経験している親の立場からすると、子供や孫を戦場に行かすことは絶対に許せないという思いがある。この思いは県民全体のものだ。イラクは米軍の占領状態であり、県民は同じように戦後、米軍の占領下の経験がある。イラクに同じ苦しみを与えることはできない。
自民党防衛族OBがイラク派兵を叱る
自衛隊法にも反するイラク派遣
箕輪登・元郵政相
他国への派遣に異議
派遣は国際法上問題
自衛隊のイラク派遣をめぐっては、「戦闘地域」かどうかや「危険性」の問題が言われるが、それ以前に、法的に問題がある。
憲法9条には武力行使を禁止する項目があるが、自衛隊法には、これを可能とする項目が1つだけ(88・「わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる」)ある。
だが、この88条は、「外部からの武力攻撃に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合に」という、同76条1項の条件付きだ。わが国が武力攻撃を受けたとき、内閣総理大臣は自衛隊に対して、武力行使を命じることができる。この76条の前提があって初めて、武力が使える。これは、「専守防衛」という考え方からきている。そのために、自衛隊があり、武器を持っている。
「わが国のため」と書いてあるのだから、武器を持って他国に行き、よその国のために使うのはおかしいのではないか。
自衛隊法に書かれている任務には、本来、自国が攻撃された場合の「防衛出動」、阪神大震災のときのような「災害出動」、さらに、警察力で不足した際の「治安出動」、この3つしかない。それが、「4つ目」の、よく分からない命令で外国に行くというのも、おかしい。
自衛隊法では、この3つの場合以外で武器を使えるのは、「正当防衛」「盗難防止」だけということになっている(95条など)。その場合でも使えるのはピストル程度のものと、私は在任中から理解していた。しかもこの場合、「正当防衛」以外では、「人に危害を与えてはならない」ともある。憲法では、「武力による威嚇」も禁じている。
今回は、イラク特措法に基づいて「行け」というのかもしれないが、それでも、武力行使に当たるような兵器を使ってはならないはずだ。しかも、相手に危害を加えるなど、自衛隊法違反だ。
自衛隊の任務は先の3つしかなく、それ以外で相手に危害を加えてはいけないのだから、イラク人に対して武器を使ってはならない。
しかも、米国が「戦争終結」宣言をしているのに、イラクへ行って人びとを殺傷するようなことを行ったら、国際法上も問題になるのではないか。
日本の立場主張せよ
違法性問い訴訟準備
私は在任中から、自衛隊法や戦時国際法を勉強してきた。だが、防衛庁幹部は、「武力行使」と「武器使用」を混同している。「武力行使」は、わが国を守るためだけにしか行えないはずで、それ以外は憲法で禁じられている。「イラクのための」武力行使は、やってはならない。
小泉首相は米国に言われるまま、自衛隊法にも反して自衛隊を派遣するようなことをせず、堂々と「行けません」と言えばよい。わが国の法律を犯してまで、協力する必要はない。自衛隊を出さなくても、できることはたくさんある。
イラクの復興は、イラクの人自身がやらなければならない。日本もそうだったが、自国の復興を自国民がやらず、どうするのか。自衛隊が給水作業を行うよりも、海水を真水にするような技術支援を行えばよい。残念ながら、いまの政治家は、そういうことが分からない。
議員を引退して10数年にもなるが、国会で憂慮する事態がどんどん進んでいる。野党も憲法の話はするが、自衛隊法との関係にふれたものはない。
私は、イラク派遣を止めるため、すでに国会議員にも手紙を出したが、さらに、イラク派遣の違法性を問うため提訴を考えている。小泉首相も石破防衛庁長官も知っているので、私も、内心じくじたるものがあるが、これ以外に手段がない。
【経歴】1924年生まれ。元自民党衆議院議員。防衛政務次官、郵政大臣、党副幹事長などを歴任。故金丸信・自民党副総裁が主宰した「日本戦略研究センター」理事長を勤める。90年に政界引退。99年、周辺事態法の成立に際し、衆参両院の国会議員に成立を憂慮する手紙を送る。
排外主義あおる翼賛マスコミ
今こそ批判精神取り戻そう
わが国支配層は、朝鮮民主主義人民共和国に対する異常なまでの敵視と排外主義をあおっている。マスコミは、この先兵としての役割を演じている。敵視と排外主義は、朝鮮の「体制転覆」を狙う米国に追随するものであると同時に、改革政治への国民の不満をそらし、わが国の政治・軍事大国化を望む、財界など支配層の策略でもある。自主・平和の国の進路を実現するための、国民的運動と世論づくりが求められる。マスコミの排外的宣伝に異議を唱え、事実上、そのために職を辞することとなった元読売新聞記者の山口正紀氏に、マスコミの現状などについて聞いた。
山口正紀・元読売新聞記者
02年9月の日朝首脳会談で、両国が国交正常化に向け交渉することが合意された。
しかし、その直後から「拉致一色」の感情的な報道であふれかえった。マスメディアは「なぜ拉致事件が起きたか」など、背景に対する考察や掘り下げを放棄した。朝鮮や金正日総書記らに対する一方的な攻撃と興味本位な中傷だけが、メディアをにぎわし続けてきた。
本質に触れない政党とマスコミ
ここには、物事の背景を追究するという姿勢が、まるで見られない。
日本は、朝鮮半島に対する侵略と植民地支配という戦前・戦中の加害者としての責任を、戦後も放置してきた。その加害の歴史を忘れ、拉致事件だけをもって、日本が「被害者の立場」になったかのように報道するのは、大きな間違いだ。
拉致事件が起こった70年代後半から80年代、韓国は朴・全と続く軍事独裁政権の下にあった。金大中拉致事件や光州事件が起き、朝鮮半島の緊張が著しく高まっていた時期だ。日本は「日米韓」軍事同盟の一翼を担い、朝鮮と事実上の戦争状態を続けてきた。そんな状況下で拉致事件は起きた。
「核開発」問題にしても、朝鮮が在韓米軍と対峙(たいじ)していること、冷戦期のような社会主義大国の後ろ盾が期待できなくなった状況も考えるべきだ。「核カード」を使うこと以外に米国と交渉し、不可侵を確約させて経済的な苦境を脱する手段がないと、金政権は考えている。そうした状況に追い込まれていることを考慮するべきだ。米国は世界最大の大量破壊兵器保有国であり、周辺にある基地に核兵器があれば、対抗して核を持つという選択は、決して一方的に非難されることではない。そこに追いやったのは、いったいだれか。
ところがマスメディアは、こうした背景にまるで「思考停止」状態だ。「北朝鮮打倒」でこり固まった「救う会」の報道管制下で、朝鮮に対する感情的な「北敵視」報道を競っている。
この状況は、同時テロ以降の米国メディアとまったく同じだ。「被害者」意識だけをあおって思考停止し、なぜ「9・11」が起こったかという背景、米国の世界支配戦略と、それが世界にもたらしてきた被害など、考えも伝えもしない。
拉致事件の責任は朝鮮にだけあるのではない。朝鮮と敵対関係をつくり、維持してきた歴代自民党政権にもある。ところが、自民党は開き直って、朝鮮への「経済制裁」を声高に主張している。飢えて弱り切っている人をさらに追い込む、メチャクチャな論理だ。民主党も同様で、社民党はこれと闘い切れず、共産党も逃げている。
冷静に考察すれば、安倍晋三らのネオコン政治家やメディアがあおる「北朝鮮の脅威」には実体がない。むしろ、それをあおることで「脅威」が生み出されている。日朝合意に沿って国交を結び、経済支援を行い、友好関係が築かれれば、「危機」は回避できる。だれが食糧援助してくれる国を攻撃するだろうか。現に韓国の盧政権はそのような態度をとっている。拉致問題自身、「救う会」と政府の一方的「永住帰国」方針により、自ら解決の道を閉ざしたといえる。現在のメディアは、こういう当たり前の議論ができなくなっている。
排外主義利用する小泉政権
こうしたメディア状況が、実質的に小泉政権を支えている。弱者切り捨ての「構造改革」路線によってリストラや解雇の嵐が吹き荒れ、毎年3万人を越える人が自殺するなど、社会には矛盾・不満がうっ積している。小泉政権は、この不満を朝鮮や外国人労働者への排外主義に転化し、政権を維持している。ナショナリズム(民族排外主義)が、人びとの不満・うっ屈への「いやし」として組織されている。だがいつまで不満をそらし続けることができるか。
小泉政権はナショナリズムをあおり、「心の問題」として日本を「戦争できる国」に仕立てようとしてきた。「北の脅威」をあおって成立させた有事法制で「制度」としても戦争ができるようにした。これをテコに、自衛隊のイラク派兵を推し進めている。
これに対し、従来は歯止め的な役割を果してきた「朝日」や「毎日」などの大手メディアも事実上、有事法制に賛成し、戦争を許す方向に乗ってしまっている。小泉が悪法を次々に成立させられる裏には、メディアの「翼賛状況」がある。
私は、日朝交渉や拉致問題を中心に、このようなメディア状況を批判してきた。「週刊金曜日」などで「読売新聞記者」の肩書きを公表してメディアのあり方を問い続けた。会社はこれに報復人事を行い、私から「記者職」を奪った。私は、ジャーナリストであり続けるために、03年末で退社を余儀なくされた。
だが、メディアの中には私の言論活動を支持してくれる記者が数多くいる。ただ、これら良心的な記者がバラバラにされていては闘えない。現状を憂える記者たちのネットワークを広げ、抵抗し闘う力を蓄える活動に取り組みたい。ジャーナリズムの批判精神、「弱者・少数者の立場に立つ」というあり方を、いまこそ取り戻さなければならないと思う。
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