もうずいぶん昔の話ですが、東京で暮らしていたことがありました。東京といっても、伊豆七島も都内ですから、二十三区内に暮らしていたと言うべきでしょうか。
それはともかく、その頃はマイカーを持つ必要さなんて、さほど感じていませんでした。運転免許は持っていたし、仕事で車を使うこともありましたが、マイカーを持とうにも駐車場はないし、いつもいつも渋滞ばかりで、高速とは名ばかりの首都高速なんかを使うより、地下鉄や電車を使った方が便利で安上がりだったからです。
ところが、田舎に帰ってくると、そんなわけにはいきません。まず、バスの本数が少ない。本数が少ないから料金が高い。そんなバスに乗って駅に行けば、今度は電車の本数が少ない。本数が少なければ不便を感じるのは当然で、だからマイカーを持たねば、ということになります。
そんなわけで、わが家にも友人からもらった(お礼に、飲み代をおごったから、数千円を払ったことにはなりますが)新規登録から数えて十三年目になる往年の名車があります。そうです、田舎暮らしにはマイカーが欠かせないのです。近所を見渡しても、たいていの家に車が一台や二台はあります。でも、家族全員が免許を持っているかというと、必ずしもそうではありません。
夫婦の年齢が三十代くらいまでだと、男女ともに免許を持っている家の方が多く、二十代ならもっと多くなります。若者は男女と問わず、免許を持っているのです。これが、四十代、五十代と年代が上がっていくにつれて、男は持っているが、女は持っていない家が増えてきます。六十代や七十代になると、男でも免許を持っている人は少なくなってきて、おばあちゃんで免許を持っている人は、まずいません。
今の時代は、マイカーを持っていることが当たり前で、町もそれを当たり前のこととした上でつくられていきます。だから、郊外や駅近くの大型店がますます繁盛していきます。大型店が繁盛するということは、家の近くに昔からあった個人商店がどんどん消えていくということです。
マイカーでなら十五分ほどで行ける店でも、バスや電車を乗り継いでとなると、たいへんな苦労がいります。田舎暮らしの必需品です。
このごろ、年輩の人から免許証を返上させようという動きがあります。免許を返上したお年寄りを警察が表彰する記事がローカル新聞に時々のります。若葉マークの逆で、年輩のドライバーにシルバーマークをつけさせようというのも同じ流れでしょう。
確かに、年をとると、とっさの判断は鈍くなります。でも、逆に若い頃より慎重になる人もいるわけで、お年寄りの運転が全部危険ということでもないような気がします。
たぶん、警察が心配しているのは、そう遠くない時期に、子どもを除いたあらゆる年代が、クルマを運転する高齢運転者社会がやってくることです。
家の近くで買い物をする店はますます減り、老若男女を問わず、みんながクルマを運転しなければ生活がなりたたない世の中になりますから、マイカーがますます必要になります。人口の減少にともなって、クルマが増えていくのです。そうなると、道路はますます混雑していき、産業活動にも影響がでます。そうなっては困る連中が危機感をもったから、年寄りから免許を取り上げようとしているのです。
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