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労働新聞 2017年3月15日号 投稿・通信

クロネコ騒動の舞台裏

 アホらしいほどの低賃金

運送労働者・高木 伸由

  「クロネコ」が騒がれています。「荷物が多すぎる」「仕事がきつすぎる」から減らしてくれと労働組合が訴え、会社が応えて、「荷物を減らす」「送料を上げる」と言っています。普通会社はこういうことは言わないものなので、「そこまで深刻なのか」と同情を誘い、「生活インフラとなった宅配便を守るためには値上げもやむを得ない」との世論ができつつあります。
 私自身は、送料値上げ自体は「必要なこと」だと感じています。今回の皆さんの関心事の中心は「送料が上がるのか?」だと思いますので、実情を簡単に説明します。
 宅配便の送料は荷物の大きさ(重量で決める場合もある)と配達距離(全国をいくつかのブロックに分けている)で決まります。最も小さいサイズで近距離の場合、標準料金は七百〜八百円で、どの業者でも差はあまりありません。しかし、最近急成長したネット通販事業者は、毎日数万個以上出荷します。問題の米アマゾンなどは毎日数百万個のレベルです。
 当然、これらとは大口の特別割引料金で契約し、一個五百円前後になっています。ウワサですが、アマゾンなどは四百円台だとも、もっと下だとも言われていました。
 郵便のようにかさが小さくポストに入れられるものならともかく、こんな単価で末端の配達に要する人件費がまかなえるはずがないのです。ですから、インターネットが普及し、通販が拡大するのと並行的に、宅配下請けの受注単価は下降しました。私はこの二十年間に五回の単価引き下げを経験しています。単価は四割下がったのです。
 それだけでなく、配達員以外に構内で荷物の引き込み作業をやる夜勤の人たち(派遣および下請けです)も半減させられています。荷物が増えたのに人が減ったのです。こういう強烈なコストカットの事情が、クロネコ騒動の伏線になっているように思います。
 数年前に、アマゾンを一手に引き受けていた佐川急便が、値上げ交渉が決裂してクロネコ、日本郵便、地域の小運送業者に移りました。そのころ配達中にクロネコと佐川の配達員が顔を合わせると「あんたが放ったおかげでえらい迷惑や」「こっちはせいせいしたで」というようなやり取りが各地であったと聞いています(むろん私も)。
 これ自体は笑い話ですが、宅配後発の佐川はクロネコに対して送料値引きを武器にしてシェア拡大を図ってきたのに、アマゾンを取れば取るほど、扱い店の赤字が拡大するひどい状況になっていたわけです。それが今、クロネコに移ったわけです。

伝わらない過酷労働
 今回世間の注目を集めたのは、過酷すぎる労働実態ということです。つい最近のNHK「クローズアップ現代プラス」の報道は、現場の人間としても「なかなか良く捉えているな」と思いました。だが、実態はもっと深刻です。
 具体例を挙げてみます。同番組で、クロネコの配達員が午前中に六十件、走り詰めと言ってましたが、朝早くスタートできる条件のないところでは、どんなにがんばっても午前中四十件がマックスです。五十〜六十歳以上の下請け配達員の場合、走り詰めなどできるわけがないので、荷物が少し増えると恒常的に午前指定は間に合いません。
 不在再配達が全体の二割という報道でしたが、全国的な平均値と実態とは違います。都市部では普通昼間の不在率は三〜四割で、年々上昇傾向です。地域差が大きく、団地や新興住宅地では五割を超えることさえあります(私自身が何度も経験しました)。同僚の経験談ですが、朝一番から連続三十二軒留守ということがあったそうです。荷物を放り出して帰ろうかと思ったと。
 宅配ボックスを増やす方針が打ち出されていますが、何を今さらです。私自身は十年以上前から、「建築基準法を改正して、新築マンションに宅配ボックスの設置義務化を、運送会社から国に要望しろ」と何度も管理職に上申しましたが、全く相手にされませんでした。それどころか、四、五年前までは「宅配ボックスの利用禁止」だったのです。宅配ボックス特有のトラブルが多発するので、中間管理職がそれを嫌ったんですね。現場は無視していましたが。
 今では、宅配ボックスなしでは、都市部の配達は崩壊します。
 さて、この業務のキツさは、いくら話しても伝わらないらしいのです。私がごく最近経験した例ですが、新人さんが五人ほど、「宅配をやりたい」と言って入ってきました。今時貴重な人材なので、大事に育てようということで、私が教育係をやることになりました。何しろ最古参で、教えた人も三桁に登っていますので。その結果、半日、四日、一日、ゼロ日、これは辞めるまでの日数です。
 経験を積んできたはずの人が「これほどきついとは思いませんでした」と言います。「この長時間ではとうてい割が合いません」とも。その通りで、説得のしようがないのです。キャリア二十五年の私ですら、時々昼夜食事抜きで二十三時までなどということさえあります。
 「どんな仕事でも、きついのは同じだ。不平ばかり言うな」というご意見があります。ネットのくそ書き込みなどにもそういう意見があふれています。しかし、たぶん違うんですね。

提起では解決しない
 無理な業界の構造と、仕事のきつさが長年続いてきた結果、よく不祥事が起こるようになりました。昨年発覚した佐川急便東京の交通違反大量身代わり事件、ユーチューブに投稿された「荷物投げたり蹴(け)ったり事件」、少し前になるがクロネコのクール便の常温配達やメール大量廃棄事件など、おもしろおかしく報道されます。
 確かに「不祥事」ですが、現場の受け止めは少々違います。「気持ちは分かるわ」という優しいのから「オレもやったろ」まで。同じことはあちこちで起きているはずです。また交通違反については、全員一致で「警察と法律が悪い」という認識です。
 少し脱線しますが、町の中心部に駐車スペースもない高層マンションを建て、荷物をどんどん配達させ、三分で駐禁を切るなど、どう考えてもまともではないでしょう。警察の財源を確保するために確実にとれる営業ナンバーを狙うというのは許せない。
 こういう流れの中でのクロネコの提起です。発端は違法残業が内部告発で暴露されたあたりからでしょう。収益の悪化と、ブラックイメージの払拭のために、格好を付けたというのが今回の正体です。限界を超えた悪循環を抜本的に正そうということではありません。
 今いる人間をなだめてつなぎ止める、その間に、外国人などもっと安く使える人を引き込み、宅配ボックスなどを整備し、将来的には集配センターの無人化など、人件費の極小化を戦略として持ちながら、現状を利用して送料を値上げし、会社の利益を増やす、というもののように見えます。
 途方もない長時間労働と、比較するのもアホらしい時間あたり賃金の低さを何とかするという、真正面からの問題意識はどこにもないのです。
 このまま放置されるとどうなるかというと、ある日突然荷物が来なくなります。交通渋滞と同じで、ある量を超えると、突然大渋滞になりにっちもさっちもいかなくなるのです。


よいこともあった
 今回のクロネコ騒動、一つだけいいことがありました。お客さんの態度が変わったのです。やはりテレビの影響は絶大です。「遅くまでごめんね」「何度も来てもらったんやろか?」(実は一回目)、こういう反応が増えています。
 「これであんたらも今までより儲(もう)かるな」などと言う輩もいます。そんなこと、あるわけないじゃないか(怒)。


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