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労働新聞 2013年9月25日号 通信・投稿

書籍紹介 
小林美希著

「ルポ 産ませない社会」

 安倍政権がこの春に少子化対策として「三年間の育児休業推進」などを打ち出した時、私の友人は「三年間も休ませてもらえるわけがないだろう! バカか!」と憤っていた。友人の妻は産休育休を取る際に会社と大いにもめた経験をしている。昨今ではありふれた話だが、そんな「普通の感覚」からはかけ離れた方針を打ち出した国のトップに対し、それだけで政治不信に陥っているような雰囲気だった。
 だが本書を読むにつれ、そんな「普通の感覚」と思い込んでいる現状認識でさえ、すでにずっと時代遅れになっているのだと痛感させられる。ここで著者は、止めどなく悪化し続ける出産・育児をめぐるさまざまな現実を、入念で豊富な取材によってつまびらかにし、「少子化」に凝縮される社会の病理と政治の罪について強烈に問題提起している。

 同著で著者は少子化をめぐる問題を、主に三つの角度から追っている。
 第一章では、この二十年ほどの間に急速に悪化した労働状況、雇用の非正規化や正社員の労働環境の悪化に関連して「妊娠解雇」や「職場流産」などに追い込まれる例などを挙げ、妊娠や出産に前向きになれない、望んでも環境が許さない実際を追っている。
 第二章では、医療環境が悪化する中、産婦人科医や看護師、助産師が人手不足や過重労働の一方で良質な医療を求められる矛盾に直面し、そのしわよせを妊産婦が一身に受けている現状を報告している。
 第三章では、同じ医療でも小児科医の抱える矛盾や、保育所や幼稚園などの現場で起こっている問題などを通じ、子育てに冷淡な社会の実情に迫っている。
 労働と医療の環境の悪化を縦軸に、妊娠と出産、育児を横軸に大枠を設け、そこに加えて、核家族化など子育てに関するサポートや知識・経験の不足、男性の低い育児休業取得率と旧態依然の性役割分担意識、高年齢出産のリスクなどの問題もからませて、いま母親が「孤育て」に追い込まれている危機的な状況を、圧倒的な現実感を持って描いている。

 著者の小林氏は、十年ほど前から雇用の非正規化の中で若者が強いられている現状についていち早く取り上げ、「結婚しない若者」や親と同居する「パラサイトシングル」を、「若者の自立心の無さ」などと若者の意識の問題としていた風潮に対し、社会の側、政治の側にこそ問題があると指摘してきたジャーナリストだ。
 以来、継続・発展的に取材と研究を続けてきた著者の成果の詰まった本書が突き付けているのは、財界の要求に沿った改革政治の結果、雇用の悪化と医療・福祉の削減が際限なく続き、それらの矛盾をとりわけ若い母子が一身に背負っている現実だ。
 第四章で現場の先進的意欲的な取り組みが紹介されている部分には光明を感じるが、何より現状をつくり上げた政治の責任とそれを根本的に変える必要性を痛感せざるを得ない。 (M)


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