労働新聞 2008年4月25日号 通信・投稿

映画紹介
「靖国 YASUKUNI」
(07年、日本・中国合作)

反省なき日本への強烈な提起


 国会議員による「事前検閲」や上映「自粛」など、封切り前から台風の目となっているドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」だが、かえって注目が集まり上映場所が増えたことは、渦中の稲田センセイはじめ右の人たちにとっては不本意な結果となってしまったことだろう。
 何はともあれ、こんなに大騒ぎされるこの映画、実のところどんな中身なの? ということで、映画の試写会に足を運んだ。「自粛」が相次いたことを「表現の自由の危機」と重くみた日弁連などがシンポジウムと併せて企画したものだ。
 会場には八倍近い抽選倍率をくぐり抜けた幸運な市民が詰めかた。国内外のマスコミのカメラがズラリと並び、独特の緊張感が漂っていた。

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 正直なところ、観る前は「意外とつまんない映画では?」と思っていた。というのも、右翼主催の試写会の後に「われわれの主張も取り入れられている」とか「必ずしも反日とはいえないんじゃないか」などの感想も出ていたようで、私は「中立を演出するための両論併記のノッペリした仕上がりなのでは」と勝手な予想をしていた。
 しかし予想は大いに裏切られた。老刀匠の鋳造作業の様子から映画は淡々と始まるが、この老人がかつて靖国神社の御神体である「靖国刀」の刀匠だったことが紹介されるところから映画の趣は変わってくる。刀はかつて将校が携え、実際に中国大陸で殺りくに使われる。ここから刀に象徴される「靖国」の本質が、言葉ではなく映像で語られていく。
 八月十五日に日本軍の軍服を着て「英霊」を称え奇妙な儀式をする人、「勝手に合祀された魂を返せ」と迫る台湾や韓国の遺族、小泉の靖国参拝を訴える日本の若者を「中国に帰れ!」と袋叩きにする輩…映し出されているのは、まぎれもなくこの日本の一つの現実であり、侵略戦争時から現在に連なるわが国の暗部である。
 中国人の監督が手がけ、日中韓三カ国の協力により、真のアジア友好をめざす目的で製作された映画だが、そのために避けて通れない、目を背けるわけにはいかない重い課題をわが国民に突きつけている。日本人そこが観なければならない映画といえる。

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 私がびっくりさせられたのは、この映画を観て「いいんじゃない?」とOKを出した右翼がいたということだ。えっ? どこを観ているの? これほどメッセージ性のある、強く問題提起する映画はそうはないだろう。間違いなくかれらのいうところの「反日映画」として合格のはずだが。
 結局、「観る人が観れば分かる」ということなのか。かれらには基本的に侵略されたアジアからの視点が完全に抜け落ちているのだろう。殺され奪われた側の人間が、時空を越えて今なお変わりなく存在する「靖国」の現実を見てどう思うか。そんなことは一秒も考えたことがないのだろう。
 私は心配してしう。この映画をのぞき穴として日本社会の一つの現実を見てしまった中国のお年寄りの中には、湧き上がる怒りやよみがえる恐怖のあまり卒倒してしまう人がいるのではと。
 映画は来月から全国で順次封切られる。引き続き「問題作」として世間を騒がすであろう。


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