労働新聞 2007年9月5日号 通信・投稿

書籍紹介
虫食む人々の暮らし
著:野中 健一

昆虫・自然との対話楽しむ旅

 書店で見かけ、即、購入を決めた。広い世界には思いもよらぬ昆虫がいて、それを食べる文化・風習があるのでは…知的冒険心をくすぐられるテーマだ。
 しかし本書は読者にワクワク感を満たす以上の知的刺激を与えてくれるだろう。

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 本書は題名通りに昆虫を食べる人びとの営みから、人間と自然のつきあい方の多様さ、自然と対話して恵みを得る知恵などに思いをはせる、いわば「昆虫と人間をめぐる旅の本」だ。
 「虫を食べる」と聞いて顔をしかめるなかれ、昆虫を食べる文化は世界中各地にあり、身近な動物性タンパク質と脂肪分の供給源として、人類史的にも重要な役割を果たしてきたという。
 しかし、同じ虫がいるから各地で同じように食べられていたかというと、必ずしもそうならないところが面白いところだ。
 例えば、臭く農業の害虫として嫌われ者のカメムシを食べる習慣は日本ではなさそうだが、驚くなかれ、世界各地に食用として珍重されている所があるという。さらにその食べ方も多様で、アフリカ南部では人びとは大変な苦労をして臭みの刺激物質を取り除いて食べているのに対し、ラオスではむしろその臭みを生かした調理法などが取られているという。文化の多様性と人間の知恵・創造力のたくましさに感心しきり。
 また、虫を捕らえ食べる人びとの視線は、著者の最大の関心の一つだ。世界各地で虫を採り食べる人たちと知り合い、その自然とのつきあい方、ものの見方・考え方に刺激を受け、環境や歴史、文化などにつれづれに思考をめぐらせている。昆虫と自然との対話は、かくも人を哲学者にするものなのか。
 そして何より、虫を採り食べる人たちの笑顔、喜びとともにある著者の心が伝わる。

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 こうした昆虫・自然と人間が相互に深く交わる豊かで美しい営みに感動を覚える著者は大学の教員でもあり、地域や文化を考える上でまたとない教材である昆虫食の魅力を伝えんと奮闘するのだが、その試みは成功ばかりではないようだ。授業後のアンケートで学生から「授業でこんなに気持ち悪くなったのは初めて」などと酷評されたり、はたまた「野中の授業では虫を食べないと単位が出ない」などと噂されたり……まあ、そうした奮闘する姿も他人事なのでほほえましいが。
 しかしこの一コマも、それはそれで日本社会の現状のあらわれだ。
 ついこの間まで日本は「知られざる昆虫食大国」だったという。しかし高度経済成長に伴い、農業や山仕事に従事する人が減り、自然が遠のき、また生活スタイルと食の嗜好(しこう)の変化も加わり、またたく間に昆虫食は先細ってしまった。本書の内容以上に、またまだ昆虫食から見えてくる社会の現実は多いのかもしれない。(T)

NHKブックス
税込 ¥ 1,019


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