労働新聞 2007年4月15日号 通信・投稿

書籍紹介
「崩壊する日本の医療」
(鈴木 厚 著)

医療はサービスでなく安全保障

 二〇〇六年四月の医療制度改悪は、患者と病院に大きな打撃を与えた。六十九歳以下の高齢者の窓口自己負担が三割になるなど、高齢者に容赦ない負担増を押しつけた。また診療報酬の引き下げは赤字で苦しむ病院経営をさらに追いつめた。
 筆者はこの医療制度改革法を「老人殺し、病院つぶし」「医療難民促進法」「医師、看護師の過労死促進法」と厳しく批判、こんにちの日本の医療が崩壊寸前にあると指摘する。筆者は第一線で働く医者であり、現場からの日本医療の赤裸々な問題点についての指摘は貴重だ。

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 国民の医療費は一年でどのくらいだろうか。答えは約三十一兆円(〇二年)で、その二五%を国庫が負担している(八〇年は三〇%)。鈴木氏は、国の借金(約八百兆円)を減らすために医療費の削減を打ち出している政府の考え方が、根本的に間違っていると指摘する。
 政府はこの間違った政策を推し進めるための世論誘導として「病気の原因は本人の不摂生」なる自己責任論をふりまいて、国民に負担増を押しつけてきた。これに対し著者は「病気に自己責任など存在しない。個人に転嫁するまやかしだ。国には国民を守るという安全保障の考え方が完全に欠如している」と批判している。
 著者の基本にあるのは「医療をサービス業と呼ぶのは間違い。医療は必要なときにはだれもが平等に利用すべき公共財産であり、国民の安全保障」という哲学だ。
 また医療事故の背景にある問題として、深刻な人手不足を指摘する。外国との比較で鮮明で、人口十万人あたりの医師数をみると、ドイツ三百三十六人に対し日本は百八十四人、ベッド百床あたりの看護師数は米国二百二十一人に対して日本は四十三人という少なさだ。日本の医師・看護師は過労死寸前の超過密労働を強いられている。
 こうした中で小児科医や産婦人科医のなり手がなくなり、地方ではお産ができない深刻な状況が生まれている。医師不足は現職医師の負担増となり、さらに医師不足を加速するという悪循環に陥っている。
 また政府は保険診療と自由診療を併用する混合診療導入を狙っているが、これは国と保険会社がもうけるためで、深刻な「命の格差」を生みだすと警鐘を鳴らす。
 医療従事者も患者も不満だらけの医療がなぜ改善されないのだろうか。それは国の分断作戦にはまっているからである。著者はまず二十六万人の医師が団結し、百四十万人の看護師などすべての医療人の団結、患者との団結を熱く呼びかける。
 なお、著者は提言の一つとして、消費税を福祉目的税にした増税をあげているが、これについては国民的議論が大いに必要かと思われる。
 医療制度は私たち国民から見て複雑でわかりにくい。この本では、国の医療制度の問題点を、豊富な図解資料を使ってわかりやすく解説している。医者と患者がともすれば対立しがちであるが、それではいけない。お互いを知ることで、闘いの方向も見えてくるだろう。(U)

出版:秀和システム
税込価格:1,050円


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