労働新聞 2007年2月15日号 通信・投稿

映画紹介
「みえない雲」(06年、ドイツ)

起こりうる原発事故の悲劇描く

 この作品は、一九八六年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の翌年にドイツで出版され、大きな反響をよんだ小説「みえない雲」を映画化したものである。原発事故による人びとのパニック、被爆で蝕まれる体、被爆者への差別などが具体的に描かれる。
 しかし、作品自体は主人公の女の子の恋や悲しみ、自立などをていねいに描いた青春ドラマとなっている。十歳代の若者を主人公にすることで、若者たちに原発問題を身近に感じてほしい、チェルノブイリ事故を風化させてはならないという、つくり手たちの強い思いが伝わってくる。

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 高校生のハンナは母と弟の三人暮らし。美しい湖でひと泳ぎしてから学校に行き、転校してきた男の子に恋するなど、ごく普通の平和な生活を送っていた。
 ある日、授業中に原発事故の警報が鳴り響いた。「これは訓練ではありません」というアナウンスが流れる。初めは本気にしていなかった高校生たちも、黒い雲が流れてくるのを目にして事故が本当に起こったことを知る。その日、ハンナの母親は仕事で原発のある町に出かけていた。
 大混乱の中、住民はつぎつぎに脱出しはじめた。ハンナは弟といっしょに自転車で駅へ向かうことにした。しかし、弟は猛スピードの車にはねられてしまう。ぼう然と道路に座り込むハンナを、見知らぬ家族が車で駅まで連れて行く。
 黒い雲が近づく中で、駅は脱出しようとする人びとで大パニックに陥っていた。ハンナは電車に乗ることができず、雨が降りしきる中、取り残されてしまった。その後、病院に収容されたハンナはしだいに衰弱し、髪の毛がつぎつぎと抜けていく…。

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 映画はドイツの美しい農村地帯の描写から始まる。平和で穏やかな日常生活を描くことで、こうした中で原発事故が起こったらどうなるのか、現実の生活の隣にある危機の恐ろしさを浮き立たせている。
 この映画では原発がいっさい描かれないが、その恐怖の象徴として放射能を含んだ不気味な黒い雲が描かれる。黒い雲が迫って来る中で、金持ちたちは自家用飛行機で遠くへ逃げ出すが、普通の住民は逃げる手段もなく取り残される。原発事故は社会の混乱、環境破壊を引き起こし、多くの人びとの命を奪い、かろうじて生き残った人びとにも体と心に深い傷を負わせる。
 チェルノブイリ原発事故から二十年たった今も依然として深刻な被爆被害が続いている。もし事故が起きれば取り返しがつかない、起きてからではすべてが遅いのだ。
 この映画を見た日、関西電力が〇四年八月に十一人が死傷した事故を起こした美浜原子力発電所三号機(福井県美浜町)を本格的に稼働させたというニュースが流れた。この映画は、五十基以上もの原発が稼働する原発大国・日本にとって、原子力空母が横須賀に配備されようとしている中で、明日起こるかもしれない現実なのだと、強く感じた。(M)

各地で順次上映
原作「みえない雲」(小学館文庫・六百円)


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