20011005

映画紹介
監督・篠崎 誠 「忘れられぬ人々」

悪徳企業と闘う高齢者描く


 戦争を体験した高齢者たちの心情を、衝撃的に描いた作品だ。篠崎誠監督は三十八歳の若手だが、現代社会の問題点を掘り下げた視点は、幅広く鋭い。

*   *

 主人公の三人の高齢者は、南方の島で共に闘い、九死に一生をえた戦友だ。三人は穏やかに老後を過ごしていた。一人暮らしの木島(三橋達也)は、畑で野菜をつくるのが趣味だ。木島は今も、米軍との激戦やその中で死んでいった朝鮮人の戦友・金山の夢を見る。
 伊藤(青木富夫)は、妻に先立たれ独身だ。ひょうきん者で、生け花の先生(風見章子)に一目ぼれし、目下恋愛中。
 居酒屋の店主・村田(大木実)は、妻(内海桂子)が病気で倒れ、意気消沈している。三人はときどきあっては、「こんな世の中をつくるために俺たちは戦ったのか」と、人間らしさを失った社会を嘆いていた。
 そんな彼らが、高齢者を狙った悪徳企業にだまされることとなる。空襲のときに子供を助けることができなかった生け花の先生は、「子供の霊が成仏できずにいる」といわれ、そのショックで精神がおかしくなったうえに、財産を取られてしまう。村田も妻の病気を治すためだといわれ、仏像を買わされ、店も家も取られてしまった。
 恋人を廃人にされた青木は、果物ナイフを持って抗議に行くが、死体となって帰ってきた。残された二人の戦友は、怒りの行動に立ち上がる…。

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 前半は高齢者たちの静かな生活が描写される。これだけでも一本の作品になるような温かさをもっているが、後半は一転して現代社会の一面を鋭く切り取ったサスペンスとなる。ときおり挿入される米軍とのすさまじい戦闘場面は、彼らが経験してきた戦争の悲惨さを強く印象づけており、主人公たちの怒りの原点を再確認させるうえで、欠かせない要素となっている。
 ここに登場する企業は、人間性を拒否して情け容赦なく利潤追求に走る、まさに弱肉強食の米国企業をモデルにした集団だ。極限の戦闘性を身につけるために社員に戦闘訓練さえ行う。映画には、ここで苦悶(くもん)する若い社員を登場させ、こうした企業体質に疑問をなげかけている。
 主役を演じた三人は七十七歳の戦争体験世代である。舞台は、今もなお軍港都市である神奈川県横須賀市。撮影も現地で行われ、米軍基地を臨む海や高台、商店街も登場している。こうした現実が映像と重なり、重みと説得力のある作品となっている。
 七十歳代以上の多くの人びとは戦争で傷つきながらも、戦後はひたすら働き続け、日本を支えてきた世代である。ラストは、彼らの一生涯に起こったすべての怒りを爆発させたかのように過激だが、彼らの怒りには、深い共感を覚える。
 穏やかに人生を過ごしているように見える高齢者たち。だが、彼らが歩いてきた人生は波乱に富んだものであることを、改めて思った。映画をみる人の、「高齢者を見る目」をも一変させる力をもつ作品だ。ラストシーンの青空が、さわやかに心に残る。(U)

東京・テアトル新宿ほか、全国で上映中

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