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深まる資本主義の危機

アジアと信頼関係築く好機

東京経済大学教員・平川 均氏に聞く




 先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)にみられたように、アジア経済危機の打開をめぐって、アジアは発言力を増大させ、米国の孤立が際立ってきた。日本は三百億ドルでアジアを支援する「宮沢構想」を発表したが、米国も独自に支援策を発表するなど、アジアをめぐる日米の主導権争いも表面化した。対米追随からの脱却、アジアとの共生がますます重要となっている。アジア危機と日本の進路などについて、平川均・東京経済大学教員に聞いた。


 マレーシアのマハティール首相は、アジア経済危機に関し、ヘッジファンドなどの投機筋を批判、短期資本を規制するなどの政策をとっている。この政策は、いつまでも続けられないだろうが、基本的に評価できる。ポール・クルーグマン、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授も、あくまで現在の危機、非常事態に対する措置としてという限定つきだが、支持すると言っている。私も、同じ考えだ。

資本規制の国際世論強まる

 昨年七月にタイの通貨危機があり、これがすぐ東南アジア諸国連合(ASEAN)に拡大、十月には香港に、さらに韓国に及んだ。韓国に危機が及ぶ直前から、私は金融自由化が経済危機を起こしている根本的な原因だと発言したが、今春くらいまでは、その論調は極少数派で、短期資本を規制しようという声はまるで相手にされなかった。

 それが夏のロシア危機、そして中南米への波及以降、論調が大きく変わった。

 それまでは、国際通貨基金(IMF)と米国が、世界中に「グローバルスタンダード」を押しつけてきた流れだ。しかし、ヘッジファンド自身がロシアで大損をした。また、中南米は米国の「裏庭」だから、その影響は大きい。ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破たんし、多くの金融機関が損失を計上した。

 米国としても、手を打たないと資本主義全体の危機になるという危機感が生まれている。加えて、社民政権がイギリス、ドイツなどに誕生したことで、欧州連合(EU)でも短期資本の自由な活動、投機的活動に対して、規制しようという声が強まっている。

 米国自身が世界最大の債務国なのに、その債務国が最大の政治力とお金を手に入れている。国としては未曾有(みぞう)の赤字だが、金融機関はものすごい利益をあげ、多くの国民もバブルを謳歌(おうか)している。常識的には理解に苦しむそうした国際関係のなかで、米国は覇権の道を見いだしている。つまり、金融を中心に世界の覇権を握ろうとしている。

 だから、米国はヘッジファンドに対して監視は仕方ないとしても、規制には基本的に反対の立場だ。しかし、短期資金の自由な活動を規制できるかどうかは、国際政治でのせめぎ合いによって決まる。各国がそれぞれ監視体制をつくり、ヘッジファンドを追放する国際的及び各国別の仕組みを追求しなければならない。米国は反対するにしても、アジア危機やロシア危機の教訓を経て、短期資本を規制すべきだという意見を無視することはできない。日本としても、規制の立場を強調すべきだ。

 アジア通貨・経済危機というが、これは資本主義の危機だ。資本主義自身が、過剰な資金を運用しなければならなくなって、デリバティブのように先を読んだ運用方法が開発されてきた。グローバリゼーションは、貿易の自由化、資本(直接投資)の自由化を経て、金融の自由化の段階に入ったということだろう。それが、今回の危機をつくり出した。だから、資本主義そのものが、新しい段階に入ったということだろう。社会主義の崩壊で資本主義対社会主義という冷戦構造が崩れ、その反動で市場万能主義が力を得、金融の自由化が一気に進められたが、無制限の市場の自由化の非人間的な本性がむき出しになった感じだ。そのため、市場万能に極端に振れた振り子が、もとに戻ろうとしているというところだろう。

日本はアジアと共にあるべき

 日本はこの状況の変化で、わずかだが政策の自由度が増している。

 昨年八月、通貨危機にあるタイが日本に金融支援を要請し、ASEANからも日本への要請があって、秋には日本政府はアジア通貨基金構想を打ち上げた。しかし、この構想は米国の強い反対にあって、十一月には断念せざるをえなかった。日本には、この構想を通じて「円圏」をつくるという狙いもあったが、IMFの枠からはずれた日本を中心とする経済圏の形成に、米国が警戒したために破産したといえる。

 しかし今年十月に日本の出した三百億ドルの支援基金、つまり「宮沢構想」に米国は賛成した。世界銀行もすぐ賛同した。与謝野通産大臣は、IMFの支援を拒否し短期資金の規制を行ったマレーシアへ行き、支援を約束したが、非常にタイムリーだった。

 この構想が賛成されたことには二つの側面がある。一つは、IMF自身の資金が底をつき、米国とIMFのみでは危機を乗り切ることは難しいという認識が出てきたことだ。もう一つは、国際的に金融の自由化を進めていく戦略で、米国自身が打撃を受けていたということだ。それに、ヨーロッパに社民政権が成立して、短期資金の規制の方向に動くなど、自由化一辺倒の今年春までの状況に変化が起きているからだ。

 ただ日本のアジア政策が、アメリカとIMFの実質的管理から離れて独自の政策決定権を持てるまでになるのか、それともアメリカとIMFの補完的な役割で終わるのか、というところが難しい。

 日本としては、これを契機に「円圏」への足がかりとし、米国主導のIMFや世界銀行を改革するという戦略をとりたいだろう。しかし、米国は何としても日本を自らの主導下におきたい。そのせめぎ合いの局面にいると思う。

 日本は、アジアの盟主になろうとするだけでなく、アジアのなかで発展を考えていくべきだ。アジアの国々と協力して、IMFや世界銀行の改革を考えるべきだ。アメリカに圧倒的に有利な国際経済秩序に反対するという意味では、ヨーロッパとも協調できる。現在のグローバリゼーションは経済の問題のように見えるが、実はそうではない。そして、政治が経済の流れを転換させられるかどうかという、非常に重要な時期が現在だと思う。

 アジア諸国、特に韓国は今回の危機でIMFの「信託統治」下に入ったのであって、それは日本による植民地化に次ぐ民族的屈辱と受けとめている。だから、日本は米国に追随するだけでなく、アジアの国々の繁栄を基本においた政策を打ち出すべきで、それができれば、信頼関係が生まれるだろう。

 日本には、APECでの林・水産物の自由化問題でも、世界の平和と繁栄のために農産物は市場の論理に載せるべきでないという哲学がない。農産物の自由化要求も米国の戦略であって、金融の自由化と基本的には同じものだろう。日本の行動次第では、この問題をアジア諸国も理解すると思う。

 日本は、過去の大東亜共栄圏の過ちがある。現在はそうした日本とアジア諸国との関係を変え、信頼関係をつくり出す好機だ。日本がアジアの盟主になろうというのでは信頼関係は築けないが、カネがあることも現実であるから、それをうまく利用する必要がある。カネがあるから助けてやるというのではなく、それを使ってアジアの一国として、共生の道を探るべきだ。

 しかも、実際には日本経済はアジアと一体化しつつある。この事実に、政治や日本の人びとの認識がついていけるかどうかだ。経済の実態にあわせた政治、国民の認識が問われている。


ひらかわ ひとし

 一九四八年生。八〇年明治大学大学院博士課程単位取得退学。長崎県立大学講師、助教授、茨城大教授などを経て、九七年より現職。著書に「NIES―世界システムと開発」(同文館)、「第四世代工業化の政治経済学」(新評論、共著)など。


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