981115


国民負担増ねらう年金改革案

年金保険料の引き下げを

一橋大学教授・高山憲之氏に聞く




 厚生省は十月二十八日、来年に予定する五年に一度の年金制度改革案を自民党に提示した。その内容は、国民への厚生年金給付額を削減し、年金保険料を引き上げ、受給開始年齢を六十五歳に引き上げるという、国民に新たな犠牲を押しつけるものである。さらに財界は、厚生年金の企業負担分を削減し、厚生年金基金を民営化させ、そのぼう大な資金を投資にまわし、利益をむさぼることを画策している。政府もまた、国民年金の国庫負担割合を引き下げようと画策している。「財政難」を口実とした国民総犠牲を許してはならない。年金制度のあり方について、年金審議会委員でもある高山憲之・一橋大学教授に聞いた。


 国民の老後に対する不安が消費を抑制し、現在の景気をさらに冷え込ませている原因の一つになっている。

 なぜ国民が老後を不安に思い、年金制度に不信感をもっているのか。それは政府が、公的年金について確固たる姿勢を示していないからだ。国民からすれば、どこまで給付水準が下げられるのか、依然として不明だからだ。

国民負担増にはしる厚生省

 これまで、国は改正のたびに給付を下げることをやってきた。八六年も、九四年もそうだった。

 また九七年一月の推計では、厚生年金の場合、ピーク時の保険料率は月収の三四・三%にもなるとされている。この保険料負担率については、政府の人口推計が出るたびに高くなっており、五年たつと話が変わっている。それが繰り返されてきた。

 今回、厚生省が年金制度改革案を出したが、二〇二五年の厚生年金への国庫負担率を二五%カットし、保険料負担を月収の一七・三五%から二六%に上げ、受給開始年齢を現行六十歳から六十五歳に引き上げるというものだ。この「負担を上げ、給付を下げる」というというのは、政府が今まで繰り返しやってきたことだ。今回が最後になるかというと、国民の大半はそうは考えない。五年たつと、また「負担を上げてください」、ということになると、みな思っている。

 これでは、自分が歳をとったときに年金がどうなっているか、現状では国民には読めない。また、年金受給開始年齢を六十五歳にというが、六十歳定年後の五年間をどうやって暮らすのか。

 国民の生活水準も、これからあまり上昇するとは思えず、給付水準が同じだとすれば、世代が下がるにつれ負担が増える。このような保険料負担の世代間格差は、国民にはとうてい受け入れられないだろう。だが国の方針がぐらついているので、「政府を信頼してほしい」と言われても、その気にはなれず、国民は自分で老後の準備をしなければならないように追い込まれている。それが、いまカネを使うと、歳をとったときにどうなるかということで、消費を冷え込ませ、不況に拍車をかける状況になっている。

 なぜ政府が負担を上げ、給付を下げようとするかというと、国民年金(基礎年金)の国庫負担割合を三分の一にすることにしばりをかけていることに原因がある。国庫負担が三分の一というのには何の理由もなく、決めたときの政治的妥協でたまたまそうなったに過ぎず、納得できる説明ができる人などいない。また、昨年六月、「国庫負担割合の検討は、財政再建後に」と閣議決定している。だから、財政再建までは国庫負担問題は検討しないということになっており、問題の先送りをしている。

 国庫負担が動かせないとすれば、政府にとって、動かせるところは限られている。それで負担を上げ、給付を下げるという結論になる。

 保険料を上げるということは、今の経済状況から、望ましいことではない。せっかく景気対策をやっているのに、それを台なしにするような話だ。ヨーロッパなどでは、保険料を下げる国こそあれ、上げようとしている国はない。

 また、毎月一万三千三百円の国民年金保険料を払っていない人が、すでに国民の三分の一にもなっており、現在の制度はガタガタだ。これでさらに保険料を上げれば、払えない人はさらに増える。

 保険料は、むしろ下げるべきだ。ところが、国庫負担問題でのしばりがあるので、官僚はそれをいえない。

 要するに、これは政治の問題で、政治が決定して官僚を従わせるしかない。

年金制度は黒字

 短期的には、現在の経済状況が悪すぎるので、景気対策をきちんとやるべきだ。

 国民は今でも年金財政が苦しいと考えがちだが、実は、年金会計は現在黒字で、本年度予算で厚生年金は五兆円、国民年金では七千億円も余っている。共済年金も含めると、七兆五千億円にもなる。こんなにカネを余らせる必要はない。

 保険料は国民から公的部門にカネを移すことだが、うまくそれが生活を支えることに使われていれば、国民は公的部門にカネをゆだねることに反対はしない。

 年金の積立金は財政投融資の財源などに使われている。これは社会資本の整備に使われ、かつては有効に使われてきたが、現在は使い方が不効率きわまりなく、計画の未消化や、一部では不良債権化したものもある。結果的に、国民のため、将来の年金制度のために役立たない使い方をしている。

 厚生年金の積立金は百三十兆円もあり、それに今年さらに五兆円積み増す必要はない。今年度は二十二兆円の保険料収入があるわけだが、それを十七兆円に減らす、つまり五兆円を国民に戻すことが必要ではないか。こうすれば、保険料を四%下げることが可能だ。労働者の手取りも増え、企業の厚生年金負担分も削減できる。一部の財政投融資計画などが凍結になるだけですむ。

 厚生省の改革案では、この積立金はさらにスピードアップして増えていく。それは国が管理するカネが増えるということだが、うまく使われないのではないか。国民に返してもらい、それを自由に使えばよい。


たかやま のりゆき

 一九四六年長野県生。横浜国立大学卒。九〇年より一橋大学経済研究所教授。現在、年金審議会委員、米価審議会委員、政府税制調査会専門委員。著書「年金改革の構想」など。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997,1998