日本国際戦略センター代表・古川 栄一氏に聞く
昨年来、経済危機下にある東南アジアでは、IMFの要求する過酷な経済構造改革や自由化に対する反発の声が広がっている。東南アジア諸国は、危機脱出へ結束を強め、同時に日本の主導性を期待している。だが、わが国は米国・IMFに追従するだけである。対米追随を転換し、アジアの共生・発展をめざす日本の進路を実現することがますます求められている。日本のアジア経済外交について、古川栄一・日本国際戦略センター代表に聞いた。
昨年七月のタイのバーツ暴落以降のアジアの通貨危機には、三つの特徴がある。
まず、通貨の急激な下落が個々の国々にとどまらず、広く東アジア全域を襲ったことだ。
第二に、この危機が発生した主な原因について、アジアと米国、国際通貨基金(IMF)との認識が異なっていたことだ。アジア側は国際的投資家による投機活動が引き起こしたとしたが、米国やIMFは、危機はアジア諸国の経済構造の欠陥によるものとした。
今回の危機はいわばアジア版「バブルの崩壊」で、投機筋などの民間資本が流入し、それが急激に引き上げたことから起こった。
だから、IMFが各国に要求しているような、財政や国際収支の均衡、経済の構造改革、自由化といった解決策は的はずれだ。IMFの均衡主義は以前から世界各国で評判が悪かったが、さらに評価が悪化している。IMFの要求を具体化して、経済が好転する保証もない。米国やIMFはインドネシアのスハルト政権にいろいろと圧力をかけている。しかし、米国・IMFが各国の経済運営の大枠をしばろうとすることに、自主性を重んじるアジアの反発は強い。
第三に、通貨危機をきっかけにして、アジア諸国が一斉に自国通貨とドルとの連動制を放棄し、変動相場制に移行したことだ。これにより、各国通貨はドル・レートの乱高下にさらされることになった。アジアは当面の危機を脱するために、今回の事態を教訓として、自国経済のドル依存からの脱却を強く望んでいる。今年になって、マハティール・マレーシア首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国を訪問し、ASEAN域内貿易の拡大と決済を域内通貨で行うことで原則合意している。このように危機乗り切りのため、アジア諸国の結束を維持しようと必死である。
顔が見えない日本外交
ドル依存から脱却したいのだから、もっと円(日本)への期待の声が出てきてもよさそうなものだ。しかし、そうはなっていない。それは、日本の外交が相変わらず対米追随で基本がなく、アジアからは「顔が見えない」からだ。
アジアの通貨危機に際して最初に救済に動いたのは日本だった。これは、日本主導・アジア中心で救済支援を行うというもので、米国抜きのものだった。ところが、後に米国が乗り出してきた。米国は財政難で自ら負担できないのでIMF主導で融資を行い、それでも足りなくなったら日本が出す、融資条件もIMFが決めて日本は口を出せない、というようにゴリ押しした。
その段階の九月、三塚蔵相(当時)はIMF総会を前に、アジア通貨基金(AMF)の設立構想を打ち出した。大蔵省の榊原財務官が相当動いたようだが、米国のサマーズ財務副長官に強く反対されるや、AMF構想をあっさり引っ込めてしまった。それだけでなく、救済策はすべてIMFに一本化させることを、十一月のマニラ蔵相代理会議で正式に決めた。これで、日本はまったく独自の動きがとれなくなった。アジアは、この苦い経験にこりている。
ここでも日本外交の問題点が明らかとなった。それは自主性がなく、いちいち米国の許可を求めに行くことだ。本当にアジアと共に危機の打開、発展をめざそうとするなら、まず東アジア諸国で体制を固めてから米国の理解を求めるべきで、はじめに許可を求めに行くようではいけない。米国の不当な介入に対しては、き然とした態度をとるという姿勢をアジア諸国に示すことが必要だ。
日本はもっと主導性を
このような状態にもかかわらず、昨年十二月にASEAN拡大首脳会議が開催された。これはASEAN九カ国と日本、中国、韓国が参加した、事実上、東アジア経済協議体(EAEC)の会議である。EAEC構想は九○年に、マレーシアのマハティール首相が提唱したものだが、日本は米国の顔色をうかがって消極的姿勢をとり続けてきた。この拡大首脳会議では、アジア通貨のドルへの過大な依存体制を見直すべきだという主張がされた。
また、各国間の貿易決済を地域通貨で行う動きが広がっており、これを日本など北東アジアにも広げようとしている。円の国際化を求める声は日本の国内外で広がりつつある。
日本はASEANの危機脱出に主導的役割を果たすべきだし、もっと貢献すべきだ。そのためにも対米一辺倒ではない、自主的な外交政策を行う必要がある。