政府は一月十九日、九八年度予算案と九七年度補正予算案を国会に提出した。予算案は昨年成立した「財政構造改革の推進に関する特別措置法(財政構造改革法)」に沿って社会保障、中小企業対策、教育などが大幅に削減され、国民負担が増大しようとしている。橋本政権は財政構造改革の名のもとで、国民に多大な犠牲を強いながら、金融システム安定化と称し、大銀行支援には三十兆円もの税金を投じるという。九八年度予算の問題点などについて、税制経営研究所の谷山治雄所長に聞いた。(文責編集部)
昨年の臨時国会で財政構造改革法が通った。これは財政赤字を縮減するために、社会保障、農業、教育、中小企業にかんする歳出を抑制あるいは削減することが中心である。
九八年度予算も表面的にはその通りに行われている。例えば、社会保障費は八千五百億円ほど自然増があるのを三千億円強と二%増におさえている。教育費も授業料引き上げなど国民負担増が目立つ。
また防衛費だが、〇・二%減っていることになっている。しかし、歳出の繰り延べなどが増えていれば実際には増加になる。すでに千三百四十八億円が繰り延べられたといわれており、実際には増えている恐れもある。
しかし一方で不況が深刻化し、橋本内閣は財政構造改革法成立から一月もたたないうちに二兆円の所得税減税を打ち出した。
そして九七年度補正予算、九八年度予算では、金融システム安定化と称して三十兆円の公費で対処するという。
これらが九八年度予算の大前提になっている。つまり九八年度予算は財政構造改革と矛盾したものであると第一に言えるのではないか。
金融システム安定化のために三十兆円の公費を投入するというのは、四月から始まるビッグバンに備えたものであるのは明らかだ。三十兆円のうち十七兆円は預金者保護といわれるもので、残りの十三兆円は金融機関救済といわれるが、困っていない所にも金を出すというのだから、これは支援にほかならない。
銀行を含めて日本の財界というか支配階級は、これまで「小さな政府を実現し、政府の干渉を排除して規制緩和を進めるべきだ。企業も個人も自立・自助すべきだ」と、主張してきた。
それが今度は何だということだ。これまでの主張からすれば、金融不安なども自分たちで始末すべきだ。それを公的資金、究極的には税金になるが、それを投入するということは、日頃の主張、理念とまったく反することだ。倫理の欠如だといいたい。
預金者保護というなら預金保険機構の保険料を引き上げて、銀行自体でまかなうべきだ。それがこれまでの主張に合致するものだ。
十三兆円については、彼らの主張していた規制緩和からすれば、つぶれるものはつぶすべきだ。私はつぶれればよいとは言わないが、おかしいと思う。政府は金融支援のために金融機関が発行する優先株(普通株に優先して配当する株。ただし、総会での議決権などはない)、劣後債(利息や財産配分で劣位にされる)を購入するという。だが優先株や劣後債の買い取りを政府に申し込むとその銀行は危ないと思われるし、申し込まなくても危ないと思われるといわれている。
そこで一番体力のある東京三菱銀行に根回しして「申し込みを先にやれ」とした。しかし公的資金による優先株購入には、いまだによく分からない部分が多い。審査委員会をつくって銀行を評価し、優先株購入の対象銀行を決めるというが誰がどう審査するのかも分からない。結局、預金者保護を名目にした大銀行救済、むしろ支援そのものだ。
なぜ政府がこんなことができるのかといえば、国民に情報を公開していないからだ。政府は財政赤字のことばかり宣伝し「このままでは日本がつぶれる。だから、社会保障、教育、中小企業対策、農業などの予算を削減する」という。
しかし国債の約半分は政府・日本銀行が保有している。例えば中小企業が銀行から一千万円借金しているが、五百万円はその銀行に預金しているようなものだ。国債の累積問題は平気だとは言わないが、政府は一千万円の借金だけを宣伝し、五百万円の預金については国民に伝えていないのと同じだ。そして国民に犠牲を押しつけている。これはペテンだ。すべてを国民に公表して財政構造改革についても議論すべきだ。
また金融機関支援の財源だが、政府の資産保有は非常に大きい。純資産、つまり資産から負債を引いたものだが、約四百兆円以上ある。なぜあるかといえば、建設国債で事業を行えば、道路や建物など固定資産が残っている。年金でも積立金がある。政府所有の資産は膨大にある。だからこれらを担保してやれるんだろうと思う。
だが、それだけの金があるなら社会保障、教育、農業、中小企業、地方自治体に金を回すべきだ。
その一方で大企業優遇政策を続けている。
公共事業費は約七%強削減して、約九兆円で、だいたい九二年の規模になる。七〇年代、八〇年代は七兆円規模だった。それがバブル崩壊後、九二年頃から公共事業を増やしてきた。だからバブル以前の規模に戻したにすぎない。相変わらず大手ゼネコン優遇といわれる実態は変わっていない。だから道路予算は削らず、住宅予算を削っている。
税制だが、法人税減税がある。中小法人減税はよいが、大企業の減税は問題だ。三七・五%を三四・五%に引き下げるが、それは大企業にとって大規模な減税になる。
しかも財政赤字については、これまでの大企業優遇の政策の結果だ。なぜなら大企業は租税特別措置などさまざまな優遇措置で税金をほとんど払っていないからだ。しかもその大企業は、自立・自助、規制緩和をいうのだから、財界が責任を負うべきだ。大企業への法人税減税などとんでもない。むしろ赤字解消に財界は一役かいなさいというべきだ。
福祉、雇用など今後は地方公共団体が大きな柱にならなくてはならない。それが補助金の削減などによって、自治体が行う福祉や雇用を制限している。特に地域経済は大変なアンバランスがあるのに公共事業などを一律に切っていくのは大きな問題だ。
また大店法廃止で大企業の地域への進出は野放しにし、中小零細商店には冷たくしわ寄せをしている。
政府による自治体と地域の中小零細商工業者へのしわ寄せは、地域経済に深刻な影響を及ぼすもので許されるものではない。