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労働新聞 2012年1月1日号 10面・新春特別インタビュー

急がれる震災復興
被災者見捨てる野田政権

「命よりカネ」の
政治は許せない

藤井 聡・京都大学大学院教授

 昨年3月に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、東日本を中心に未曽有(みぞう)の被害をもたらした。幾十万の被災者が、こんにちも苦しみの中にある。だが、菅政権とこれを引き継いだ野田政権は、大企業、大銀行には多額で素早い支援を行う一方、被災者の生活と営業の再建は「二の次」である。それどころか、「復興特区」など、被災地を大企業のための儲(もう)け口にする政策も進めている。政府の「復興」策に異議を唱え続けている、藤井聡・京都大学大学院教授に聞いた。


「遅い、少ない」復興対策

ーーーー未曽有の災害となった東日本大震災からの復旧・復興に関する、野田政権の対応策について、お考えをお聞かせ下さい。


藤井 東日本大震災をめぐる政府の対応には、徹底的に憤っている。
 端的に言えば「遅い、少ない」。最初はわずか三百億円の予備費の活用で、第一次補正予算で四兆円、第二次補正予算で二兆。第三次は九兆円余とやや多かったが、合計で十五兆円あまりで、後述するように内容に問題がある。これでさえ、政府の推計でも二十五兆円とされる被害額には到底及ばない。地震保険金額の支払いから直接被害額を想定すれば、実際の被害額は約四十七兆円という推定もある。補正予算の総額は、この三分の一以下ということになる。
 しかも、政府の対策は遅く、現地の人たちの生活、営業の復興はまったく進んでいない。ガレキ処理は全く終わってなどいないことをはじめ、専門家が現地に行けば「今すぐ行うべきこと」を数限りなく指摘することができる。一部には、政府の「二十五兆円」を「どんでもなく過大」とする論調もあるようだが、そんな指摘こそ「とんでもない話」だ。
 この瞬間にも、多くの被災者が亡くなり、故郷(ふるさと)が滅んでいっている。政府が意図的に殺しているのではないにしても、見殺しにしているということができるだろう。
 さらに許せないのは、被災地に「復興特区」なるものを創設しようとしていることだ。
 特区制度は小泉政権下で導入例があり、もともと、民主党政権が「新成長戦略」で打ち出していたものだ。特区内では規制を大幅に緩和し、内外の大資本を呼び込んで、ふつうならできないことをやらせようということ。つまり、被災地とまったく関係のない政策だった。それに「復興」という名を冠することで、もっともらしくさせている。大資本の参入で農漁業はつぶされ、中小企業もつぶされ、土地は売り渡される。それによって、いっそう荒廃した故郷が未来が、残念ながら目に浮かぶようだ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)も同様だ。これまた「新成長戦略」の柱で、震災後のわが国にいっそう打撃を与えることになる。農業、漁業、中小企業、さらに国民皆保険制度もつぶれる。利益を得るのは、これまた内外の大資本だけだ。
 消費税増税も同様だ。輸出大企業や財務省の昔年の願いなのだろうが、デフレで冷え込んでいる国民の消費意欲を、さらに冷え込ませる。とりわけ失業者や生活保護受給者などの弱者、社会的立場の弱い人びとの生活に大打撃を与える。
 災害被災地の混乱に乗じ、「復興」を口実に大資本による再開発をやりたい放題にやらせるという政策は、世界的に広まっているものだ。これは、ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)と言われる。インドネシア近海でのスマトラ沖地震(二〇〇四年十二月)、あるいは米国でのハリケーン・カトリーナ(〇五年八月)の際に行われたし、内戦後のリビアでも再現されようとしている。米国は「アジアでの災害対策」を掲げているが、意図は明白ではないだろうか。
 野田政権が行おうとしていることはこれと同じで、被災者・国民を見捨てるだけでなく、意図的に殺める政策であると断じても過言でなかろう。
 政治とは元来、国益、すなわち国民の幸福と所得、雇用、安全を守るためのものだ。これに反する野田政権は、すなわち民主主義違反である。
 民主党政権は、従来の自民党政権以上に悪い。日本国民を不幸のどん底に陥れる、最悪の政権と断言せざるを得ない。

急がれる再度の大震災への対策


ーー藤井先生は「列島強靱(きょうじん)化」を唱えていらっしゃします。これについてご説明下さい。

藤井 日本は「地震大国」である。全世界で起きる地震の一割が日本で発生しており、マグニチュード六以上のものに限れば、その二割もが日本で起きている。これは、日本列島直下に、ユーラシア、フィリピン海、北米、太平洋という四つのプレートが接しているからだ。
 東海、東南海、南海など発生確率が高いとされる地震は多い。とくに、首都直下の大地震は確実に起きる。関東大震災以降、すでに九十年が経過しており、今後三十年以内に発生する確率は七〇%以上だ。しかもこの確率は、東日本大震災の影響で高まったと言える。三十年どころか、「十年以内」の可能性が高い。ふつうの人が交通事故で死ぬ確率は〇・二%なので、比較にならないほど高いと。
 言うまでもなく、首都圏には三千五百万人もの人口を抱える、世界最大の大都市圏である。日本の国内総生産(GDP)の三〇%が集中しており、首都圏だけで韓国やカナダといった先進国一国の規模を上回っている。ここを直下型地震が襲えば、その規模や発生する火災のレベルにもよるが、三百兆円を超える被害が出ると予想される。世界経済への影響も甚大だ。
 確率の大きさを考えれば、家族で「車に気をつけなさい」と注意する以上に、国家ぐるみ、国民全体で大災害に備えなければならないはずである。
 国民の命と財産を守るには、公共施設などを中心とする「耐震化」、さらにソフト面での整備を含めた「列島強靱化」を急がなければならない。今後五年間で集中的に基本的な復興を実施し、さらに五年間をかけて、東日本を完全に復活させる。
 さらに、首都圏の強靭化に三十兆円程度をかければ、大地震が起きても被害は半分程度に抑えられる。必ず来る大地震、その「Xデー」に備えなければならない。まさに、各種公共事業の出番なのである。

人命軽視・地方軽視の転換を


ーーその点から、再度、民主党政権への評価をお願いします。

藤井 野田・民主党政権が行っていることは、これとまったく逆の政策である。
 もともと民主党政権は、「コンクリートから人へ」を唱えて誕生した。さらに「事業仕分け」で世論の注目を集め、「ムダ排除」をアピールした。これは「公共事業=悪」という誤った考えに基づく政策で、小泉政権の構造改革路線と同じ立場に立ったものである。
 非効率で、国民の生活向上に役立たない公共事業があることは否定しない。また、そのような公共事業を推奨するものではない。
 だが、大震災を機に、国民は「公共事業=悪」ではないことを身をもって知ったのではないのか。もし、三陸沿岸に堤防がなかったらどうだったか。大震災では、斜面を四十メートル以上も駆け上がる大津波が起きた。堤防は万能ではなく、破壊されたところが多いが、それでも存在していなかったら、被害は想像を絶するほどに甚大なものになっていたことは間違いない。しかも、前述したように、次の大地震は必ず起きる。
 震災対策以外の理由もある。
 この十年余りで公共事業が劇的に減らされた結果、地方には老朽化した道路や、いつ落下してもおかしくない橋梁、倒壊する可能性のある公共施設が数多くある。だが、民主党政権は「事業仕分け」で、小中学校や高速道路などの耐震化予算を削りに削ってきた。万が一にも重要な橋や道路が崩壊する事故が発生すれば、直接的に人命にかかわるし、物流、地域経済にも大きな打撃を与えることになりかねない。
 このような人命軽視、地方軽視の政策を転換し、重要インフラの補修を急ぐべきだ。
 「財政難」を理由に、こうした対策に否定的な意見もあるだろう。だが、国民の命と財産を守るための事業を「財政」を口実にやめるとすれば、それは結局は政治が「命よりもカネ」を大事にしているということと論理的に等価だ。このような政治は許されない。
 将来にわたって国民に必要な事業を行うことは、「後世へのツケ回し」にあたらない。国民を守るための経費なのだから、「防災国債」のような新規の手段もためらうべきではない。
 もし、政府が反省してきちんとした政策を行うということがないなら、そのような政権は国民の力で倒す以外にないだろう。

ーーありがとうございました。

藤井聡(ふじい・さとし)
 1968年、奈良県生まれ。京都大学工学部土木工学科を経て、東京工業大学大学院理工学研究科教授等。2009年より、京都大学大学院工学研究科教授。専門は、国土計画論、土木計画学、都市計画、公共政策のための心理学。著書に、「公共事業が日本を救う」「列島強靱化論−日本復活五カ年計画」(ともに文春文庫)など。 (文責編集部)

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