労働新聞 2007年4月5日号 インタビュー

朝鮮敵視と一体の
在日朝鮮人への不当弾圧

排外主義あおるメディアの危険性

元読売新聞記者・
フリージャーナリスト
山口 正紀 氏に聞く

 安倍政権は朝鮮への敵視と排外主義をあおり、在日朝鮮人への不当弾圧を繰り返している。安倍首相のいう朝鮮「脅威論」は、対米追随の軍事大国化を進める口実にすぎない。メディアは排外主義を積極的に支えているが、自主・平和の進路のための世論づくりが求められている。メディアの状況について、拉致問題の報道を契機に「読売新聞」を辞したフリージャーナリスト、山口正紀氏に聞いた。


 昨年来、朝鮮総聯を中心とする在日朝鮮人に対する不当な弾圧が続いている。
 警視庁が十一月末、「薬事法違反」を口実に大がかりな捜索を行って以来、神奈川、兵庫、大阪、北海道など、全国で十四件約五十カ所の強制捜索が行われた。計一千八百人の捜査員が動員される異常さで、在日朝鮮人十一人が逮捕されている。
 これら一連の弾圧の特徴は、第一に、「微罪」とも言えないような「容疑」で大規模な不当捜索が行われていることだ。
 七十歳を超える病気の女性が栄養剤を持参することが、どうして「薬事法違反」なのか。仮に手続きミスがあったとしても「口頭注意」ですむレベルだ。
 ほかの「労働者派遣法違反」容疑(神奈川)や「税理士法違反」容疑(兵庫)なども同様で、在日朝鮮人への弾圧とその宣伝自身が目的になっているといわざるをえない。
 第二に、この弾圧に対するメディアの報道のひどさだ。報道は朝鮮の核実験などとも強引に結びつけた、公安演出による「脚本」をそのままたれ流すだけだ。「薬事法違反」問題については『読売新聞』が一面四段で「不正輸出」「放射能の被曝治療」などと大々的に取り上げる一方、女性が実際にがんを患ったことにはどの新聞も一行も言及していない。
 メディアの報道姿勢と相まって、「朝鮮人は怖い」という排外主義があおられている。

安倍政権登場で強まった排外主義
 在日朝鮮人に対するバッシングとそれをあおるメディアという構図は、朝鮮民主主義人民共和国に対する敵視や排外主義と、完全に軌を一にしている。
 これは今に始まったことではない。一九八九年の「パチンコ疑惑」、九三〜九四年の「核開発疑惑」、九八年の「テポドン騒動」、二〇〇二年の拉致問題と、メディアが大騒ぎするたびに、チマチョゴリ切り裂きなど卑劣な人権侵害、犯罪が繰り返されてきた。まさに、攻撃は系統的だった。
 だが、昨年七月のミサイル実験と十月の核実験、何より安倍政権の登場を経て在日攻撃は確実にエスカレートし、最大規模のものになった。政府とメディアが二つの「実験」を今にも日本が攻撃されるかのような「脅威」に仕立て、不安をあおった結果だ。
 ミサイル発射後の十日間で、全国で百十三件もの朝鮮人への暴行や脅迫被害が起きた。その後も、朝鮮総聯関係団体への放火、総聯中央本部への切断された指の郵送など、テロと言うべき凶行が起こっている。
 この期間に実行された、政府による朝鮮への制裁措置は重大だ。ミサイルとはまったく無関係な万景峰号の入港禁止や、在日朝鮮人への渡航・再入国規制が行われたし、日朝間をつなぐわずかばかりの企業活動までが「違法」とされた。東京都など自治体も、朝鮮総聯などに対する日比谷野外音楽堂の会場使用許可取り消しなど、言論・表現の自由を侵害している。
 六者協議の合意を前に、米国による「力の政策」の行き詰まりが明らかになってきている中での日本の突出で、孤立の道だ。こうした政府の態度は、十一月以降の大弾圧の「布石」で、放火などのテロを助長したものでもある。
 これらの排外主義は、拉致問題や核実験を口実に「朝鮮の脅威」をあおることで、日米軍事同盟の強化や憲法改悪などの日本の軍事大国化を正当化し、日本を戦争のできる国にしようというものだ。また、「格差社会」という名の貧困化政策に対する「国民」の怒りをそらすという狙いもあるのだろう。
 だが、大手メディアはこうした危険な動きにまったく異議を唱えず、当然視している。ある意味で、現在の日本社会の状況は、戦前の関東大震災当時、朝鮮人への大虐殺を引き起こしたデマと同じレベルにある。このような状況を許し、批判精神を失って加担している大手メディアの責任は、きわめて重大だ。

歴史への冷静な認識が不可欠
 朝鮮のミサイルや核実験がどの程度のものであったかはともかく、忘れてならないのは、日本や米国の朝鮮に対する歴史的態度であろう。
 日本は朝鮮を侵略し、植民地支配した。強制連行や慰安婦などは、安倍首相がいくら否定してみても、隠しようのない事実だ。
 しかも、朝鮮戦争以来、米国は膨大な核兵器で朝鮮を軍事的に包囲し、圧力を加えてきた。日本はその米軍による国内への核兵器持ち込みを認めてきたし、朝鮮をターゲットとした軍事演習に参加するなど、包囲網に加わっている。その上、朝鮮を国として認めず、在日朝鮮人への差別も変わらなかった。
 歴史を知っていれば、核兵器を持つ米国が朝鮮を制裁することに道理がなく、日本が朝鮮のミサイル・核実験を非難できるはずもないことが理解できる。昨年十月、被団協の結成五十周年集会で、広島原爆資料館の元館長が「核を保有する常任理事五カ国に、朝鮮の核実験を非難する資格があるのか」と問いかけたが、これが正論だろう。
 日本のメディアは、こうした事実を見ず、朝鮮の人びとには「米日の核軍事包囲網」がどう見えるかという冷静な視点がない。まさに「二重基準」である。

野党は財界の狙い見抜こう
 政治・政党の責任にもふれなければならない。
 政府と同じように、朝鮮の核実験を非難するだけの野党の情けない態度の遠因は、拉致問題にある。
 拉致事件が明らかになった際、与党や右派は「これ幸い」と、野党や『朝日新聞』などメディアと朝鮮との「関係」をあげつらい、攻撃をしかけた。拉致は事実であったにしても、それには米日との歴史的緊張関係がある。右派の狙いは野党に打撃を与えることにあったわけで、これにき然として立ち向かわなければならなかったはずだ。
 だが、共産党も社民党も、「いかに自分たちは朝鮮と関係がないか」と「弁明」するばかりだった。言い訳して逃げるばかりで、闘わなかった。
 憲法改悪や戦争に反対するのであれば、政府や与党が改悪の口実にしている「朝鮮の脅威」のデタラメさを明らかにしなければならない。さらに、拉致問題の解決も、日朝の国交正常化以外に道はない。これをせず、民衆レベルでつくられている排外主義と闘わない「護憲」では無力だ。
 しかも野党は、安倍政権の進める諸政策が、財界の支持の下で行われていることを批判できていない。財界主流の支持があるからこそ、安倍は世界で通用しないことも平気でできる。
 日本経団連の下に経済団体が統合され、トヨタやキヤノンが財界の主流となったのとほぼ同時期、『日経新聞』が改憲論に転じたのは、その象徴的なできごとだった。財界はその後、ことあるごとに「提言」を出すなどで政治に介入している。この財界の狙いを批判しなくては、抵抗できない。かれらこそが、「日本資本を守るため海外に自衛軍を派遣できる国」を求めているのだ。

*    *

 政党はそうだが、現在の世論状況が絶望的かというと、そうとも言えない。
 私が大学で学生に話した経験でも、朝鮮との歴史的事実や最近の一方的なキャンペーンの不当性について丁寧に話せば、きちんとわかってくれる人は多い。貧困化政策に対し、多くの若者が怒りを持っている。マスメディアのあおる排外主義がこの怒りをねじ曲げ、戦争へと動員しようとするものであることを理解すれば、その狙いに怒りを感じないはずはない。
 ジャーナリスト、政治家はあせらず、しかし勇気を持って訴え、行動すべきだろう。

やまぐち・まさのり
 一九四九年大阪府生まれ。七三年読売新聞入社。宇都宮、甲府支局、東京本社地方部、データベース部などを経て〇三年退社。以後、フリージャーナリスト。「人権と報道・連絡会」世話人。著書に「メディアが市民の敵になる」(現代人文社)など。『週刊金曜日』に「人権とメディア」を隔週連載中。


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