|
労働新聞 2007年3月15日号 インタビュー
6者協議の合意
日本は独自の対朝鮮政策を
大学教員・前田康博 氏に聞く
|
六者協議が合意に達した。だが与野党は、朝鮮半島の諸問題の根底に、朝鮮戦争以来の米国による朝鮮敵視政策があることを無視している。朝鮮との即時無条件の国交正常化と日米安保条約の見直しは、わが国の進路にとって切実な課題である。朝鮮問題に詳しい、大学教員の前田康博氏に聞いた。(文責編集部)
二月下旬に六者協議の大きなヤマ場があり、一定の「合意」に達した。朝鮮は核施設の「無能化」と引き替えに、段階的にエネルギー支援などを受けるというものだ。
この合意が成立したのは、米国が事実上、米朝二者の話し合いに応じたことが大きな要素となっている。米国はイラク戦争の行き詰まりもあり、朝鮮への態度を変更せざるを得なくなったということだろう。六者協議でも成果が得られなければ、ブッシュ政権の危機につながるからだ。
米国は長い間、「朝鮮の一方的核廃棄」を強要し続けてきたが、それが通じなくなり、朝鮮が主張してきた「同時行動の原則」に乗るしかなくなった。その意味で、朝鮮の一つの外交的勝利といえる。
米国にとって失敗かどうかは今後の出方によるが、「一方的に朝鮮の核廃棄を迫る」というのは、自らハードルを下げるためのカードだったかもしれない。それにしても米国が大幅な譲歩を迫られたのは間違いない。
本質は米国の朝鮮敵視政策
米国は常に経済・政治・軍事面の制裁で弱者をたたくという砲艦外交をとってきた。
日本も太平洋戦争前に米国の全面的な制裁を受けたが、朝鮮は日本よりもはるかに小さな国であり、米国に朝鮮戦争で国土を荒廃させられた上、半世紀にわたり厳しい制裁を受け続けてきた。米国は日韓に約九万人の駐留米軍を置き、核兵器を含む大量殺傷兵器で、日常的に朝鮮を威嚇してきた。朝鮮戦争は一九五三年の「休戦協定」のままで、米朝間では半世紀を越えて交戦状態が続いてきた。
米国はそれを平和協定、恒久的な平和条約に変えるという意思をまったく示さず、朝鮮を地上から抹殺する戦略を取ってきた。
これが、朝鮮半島をめぐるさまざまな事態の本質である。
つまり米朝間の交戦状態をなくすこと。それにはまず米国が「核を使わない」ことを宣言し、朝鮮に対する敵視と威圧をやめることが必要なのだ。
朝鮮の核や非核国への「核拡散」を問題にする米国の短絡した理屈は、国際的に通用せず、朝鮮半島問題のすり替えでしかない。
それゆえ、米朝二者の協議で合意すれば、六者協議で話し合われている懸案のほとんどが解決可能なのだ。それを六者協議に持ち込んだこと自体が、米国の思い上がりだ。多数を頼んで朝鮮を包囲すれば「音を上げるだろう」という伝統的な米国流の砲艦外交にほかならなかった。
米国の核こそ廃棄を
だが、米国は朝鮮をたたくことで、朝鮮の核開発を逆に加速させてしまった。だから、「朝鮮の核開発」は米国の負うべき責任といえる。
朝鮮に限らず、核開発が国家の自主権であるということは非核保有国すべてが思っていることで、他国から、ましてや核大国から強要されることではない。非核国が自らの意思で決めることで、それが世界に存在する二百余の国家の自主権である。
さらに米国は核拡散防止条約(NPT)で核保有国に義務づけられている「核軍縮」をまったく進展させていない。
このような米国が、「朝鮮に核は持たせない」などという理屈は、世界に通じない。核を独占する大国に対し、小国が「核兵器で対抗するしかない」と考えるに至ったのは当然のことだろう。
米国にとっては、交戦国(朝鮮)の核保有を許してしまったという意味で、二十一世紀初頭において、もっとも犯してはならなかった失敗をしてしまったといえよう。
朝鮮は米国が攻撃せず、敵視をやめれば「核を捨てる」と言っている。これは破れかぶれの「瀬戸際政策」ではない。独立国として平穏に暮らしたいという願いをあらわしたものにすぎない。
まして経済困窮や「専制政治」などはそれぞれの国の内部問題であり、民族自らが選択すればよいことだ。他国が干渉すべきことではない。
朝鮮半島の非核化や平和・安定化は、米国が朝鮮抹殺戦略を中止すれば、とっくに実現していたことだ。
日米安保条約見直しが必要
東アジアの抱える問題の核心部分は、日本の対米追随姿勢と外交無策が招いたものだ。
韓国・中国・ロシアは朝鮮半島での武力紛争を望んでいないし、米国のアジア介入を避けたいというのも共通した認識だ。日本だけが米国の東アジアに対する不当な介入を唯々諾々(いいだくだく)として受け入れ、歓迎して、米国の「核の傘」の中にいる。
日本国民として、核保有国が一つでも減ることを願うのは当然だろう。
だが、「核持ち込ませ保有国」である日本が、朝鮮や中国の核を問題にすること自体が正常でない。
本当に「核」がいやなら、「米国の核」に守られていることを否定すべきであり、自らの核武装の意思を永久に捨てるべきである。日本は米軍基地と核兵器を撤去させ、米国に核廃絶を迫るべきだ。日本が世界に信頼される独立国となる唯一の道といえよう。
本来、朝鮮半島の和解・平和の仲介役は、植民地支配をした日本が担う責務があるという声は、アジアにもヨーロッパからもあがっている。だが、歴代の日本政府は朝鮮戦争を早期に終結させることにはいっさい手を貸さず、米国の南北分断の固定化政策のみを支持してきた。
しかも現在では、日本は拉致問題を持ち出すことで自縄自縛(じじょうじばく)に陥っている。安倍政権が拉致問題にこだわっているのは、それがもっとも大事だからというよりは、日本が独自の対朝鮮政策を持っていないためであり、諸外国からは日本の内政問題を外に転嫁しているとしか見られていない。
現在の日本は、日米安保条約に縛られ、そこからしか米国以外の近隣諸国他国との関係を考えられなくなっているのだ。
その結果、朝鮮民主主義人民共和国とは未国交のままであり、日ロ間には平和条約さえない。中国との間の「不戦の誓い」は常にぐらつき、米国が「中国の脅威」をあおるたびにその尻馬に乗るという情けない状態だ。
だから従属的な日米関係を崩してみることで、逆に真の日中、日ロ、日韓、日朝の関係が開けてくる。日本にとっては、「日米関係の見直し」なしに、韓国、朝鮮をはじめ北東アジアにおいてける正常な国家関係は築けないのだ。
六者協議で論議される諸問題は、最終的には日米安保体制の問題に戻ってくるだろう。にもかかわらず、朝鮮を包囲して核放棄を迫ることが最終目標だと考えている日本の各政党や言論界の姿勢は、きわめて短絡的で幼稚なものだ。
拉致問題の解決も、日朝国交正常化の実現なしには進まない。日本は朝鮮と即時に国交を正常化させ、外交交渉の過程で諸懸案を処理してゆくのが本来の外交のあり方だろう。
過去の植民地支配の清算は一日も早く、六五年に日韓条約締結により韓国に対して行ったのと同様の賠償と人道的・支援を、朝鮮にも行うべきだろう。
まえだ・やすひろ
毎日新聞東京本社編集部外信部記者、ソウル支局長、編集委員を経て九三年から大学教員。朝鮮半島・中国を含むアジア、欧米各国を取材・訪問し、国際関係論、政治学などを担当。
Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2007 |
|